普通の恋愛
シスコンじゃありませんケド
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しっかり者のお姉ちゃん。
当人は自身をそういう存在だと思っていたし、周囲もまた同じだった。あるいは漫画ばかり描いている弟との比較がその印象を決定付けたのかもしれない。
しかしエイジは気づいていた。
姉が案外天然で、抜けていることに。
「そうですか、わかりました」
電話を切り、音楽のボリュームをあげた。
珍しくすぐさま原稿に向かわず、机につっぷして考え込む。
「お姉ちゃんが上京……大丈夫なんですかね」
呟いて、次の瞬間にはすべてを放り投げ、原稿に没入した。
そして時過ぎて春。
なかなか見つからなかったアシスタントも確保され、日々意気揚々机に向かっていた。
しかして姉来る。
さんざん迷ったらしく、涙目でたどり着いた。
掴みかかられた福田に若干の羨望を覚えつつ謝るとプリプリ怒る。しかし説教の後気が済んだのか、ゴミ溜めのごとき部屋を片づけ始めた。
「聞くまでもないと思うんですケド」
アシスタントの二人が帰宅した後、姉の作った味噌汁を飲みながら問いかけた。
「福田さんってお姉ちゃんの好みのタイプですよね」
むせた。
目の端に涙を浮かべ、反論する。
「そんなわけないでしょ。あんな不良っぽい人なんて」
「でも顔は好きなんですよね」
「確かに……ってだから違うっ」
必死で反論する。
エイジはそれを聞き流しながら思案した。
怖がってるのも本気っぽいですけど。これから毎日のように顔をあわせるわけですし、お姉ちゃんが福田さんを好きになる可能性は高いかも。
エイジは先ほどの玄関先の一幕を思い浮かべ、そこにヒーローとヒロインの出会いのシーンを重ね合わせた。
お姉ちゃんが好きにならなかったとしても福田さんが惚れる可能性は高いです。
───だってこんなに綺麗なんですから。
それとなく様子を見て、福田に資格がないようなら邪魔をしよう。
エイジは心中で決意した。