普通の恋愛
普通の恋愛的お正月の過ごし方
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白い息を手のひらに「はー」と吹きかけた。
玄関を一歩出れば、頬がぴりりとする寒気。
はマフラーの中で身震いをし、けれども満面の笑顔で振り向いた。
「ほらほら、早く行きますよ?」
「なんで夜中にわざわざ」
週刊漫画家の休みは少ない。
ましてや新人、盆と正月以外の休みなどないも同然だった。
可愛い彼女と一緒に紅白を見て、お手製の蕎麦を食べ、ベットで年越し、朝起きたら雑煮でも作ってくれないかなと思っていた。
しかし肝心のは年をまたいだ後から準備を初め一言、
「初詣に行きましょう!」
ごねたがダメだった。
くちびるを尖らせ、「えー行きましょうよ、ダメ?」と上目づかい。
このままベットへ……(以下省略)
なんだかんだでに甘い彼の事。仕方なしにコートを羽織り、新年の闇の中へ歩き出した。
「今更ですけど、実家に帰らなくて良かったんですか?」
「本当に今更だな。 いいんだよ。 お前は?」
「そりゃまあエイジと一緒に帰ってこいって言われましたけど……」
口の中で、「でも真太さんと一緒にいたかったから」と呟いて視線を逸らす。
つないだ手に熱が籠った。
真太は自然な仕草を装って、指先を絡める様につなぎ直す。
「……とりあえず、お参りか?」
「ですね」
何事もなかったかのように、見上げてまばたき一回。
近所の神社のくせに案外人手が多い。少しだけ引き寄せた。
人ごみの波に乗り、賽銭箱の前にたどり着く。
彼は基本的に神頼みをしない。
だがの真剣な横顔に少しだけ願掛けをした。
そして帰り道。
今度は腕を組んで歩いた。
「何願掛けしたんだ?」
「秘密です」
覗きこんだ瞬間の笑顔がとてつもなく可愛かった。
しかしながら腕にあたる胸も気にかかる。
「……なんだよ、気になるだろ」
「ん、もう! ないしょったら内緒です。 真太さんのスケベ」
「うるせ」
「きゃあ!」
柔らかい髪をぐちゃぐちゃにしてやった。
「真太さんのばーか!」
「の方が馬鹿だ、ばーか!」
どちらの方が馬鹿か、などとくだらない事を言い合っていたらの願い事を聞き忘れた。
ま、いいか。
一緒にいればそのうちわかるだろう。
真太はひとりごちて、玄関の鍵を開けた。
真太さんが人気作家になれますように。
あと、できればずっと一緒にいられたらいいなと思います。