諸注意。このお話は著しくBASARAキャラクターのイメージを損なう恐れがあります。 タタラ(兄)が黒いです。揚羽が軽い変態です。全体的にコメディーなんじゃないかと思って書いています。学園物です。タタラ→ヒロイン←揚羽な感じです。それでもよろしければどうぞ。
バレンタイン。
それはローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日であるとされている。つまり愛はあるけどめでたくない。
昔の人はなぜブラッティーバレンタイン(血塗れのバレンタイン)にしなかったのだろうか。思案は尽きない。
「……」
更紗が困り顔で微笑んだ。
日当り良好の窓側、後ろから二番目にある私の席。机に半分つっぷしながら、先ほどと同じ答えを返した。
「よってバレンタインにチョコを女子から男子にあげるなんて、ただの日本企業の戦略。 更紗が参加するのを止めるつもりはないけれど、私はしない」
「でもお兄ちゃん、がっかりすると思うよ? パパだってきっと期待してるよ」
ぴくりと耳を峙てた。
「……確かにタタラにはいつもお世話になってるわね……お父さんは……どうだかしらないけど」
「お父さんだって絶対欲しいよ!!」
微妙に引きつった笑顔を浮かべる彼女を眺めながら考える。
次いでため息をついた。
「……わかった」
言った瞬間自重が倍になる。
「ー、俺の分も当然あるよな」
「重い、どけ」
視界が、ゆるいウェーブがかった髪で埋まった。ごんごんと頭で攻撃するも変な物体は離れない。さらにごんごんやってると、突然重みが消えた。
「、変なことはされなかったか」
「ありがとう、タタラ」
揚羽を引きはがして、にっこりと微笑む幼なじみに息を付いた。
「よう、タタラ。 あいかわらずのお邪魔虫だな」
「あはは先輩、さっさと自分のクラスに帰ってくださいね」
ニコニコニコニコ。
空気が黒い。
「相変わらずだな」
「うん」
話し声に振り返ると、更紗と朱理が仲良く並んで眺めていた。
……見てないで助けろボケ!
そしてやってきた当日。
朝から気が重い。
「、おはよう」
玄関を出た途端、美少年スマイルを浮かべたタタラとかちあった。
珍しい。更紗と会うことはあっても、彼とはほぼないのに。
「部活は?」
「今日はお休み」
「更紗は?」
「朱理と一緒」
何かおかしい。首を捻るが答えは出ず、そのまま並んで歩き出す。
「」
「うん」
「ー」
幼なじみの笑顔がちょっと怖かった。
「もしかしてチョコ欲しい?」
「うん」
負けた。
敗北感を感じた。
「どうぞ」
「ありがとう!」
包みを眺めて、嬉しそうに微笑む彼を見て、やっぱり用意して良かったなと思う。
タタラは大切な友達だ。
そして放課後。
「」
「ちゃーん」
「ちゃん言うな」
休み時間のたびに視界の端でわさわさしていた派手な影は、とうとう身を顰めることすらせず飛び出して来た。こらえきれず振り返ると、笑顔で手を差し出す。
切れ長の瞳をけぶるまつげが彩り、妖艶な雰囲気を醸し出すくちびるは女子だけでなく男子にも大人気だ。顔だけはいいのだ、顔だけは。
「先輩」
「揚羽でいいって言ってるだろ?」
「じゃあ揚羽先輩、もう山ほどチョコもらってでしょう?……ついでにあげてたじゃないですか」
「からはもらってない」
ぎゅっ。
黄色い声が教室で響いた。
「……さわんなボケ」
「照れ屋さんだな」
腰を掴む腕がうざい。
あごを持ち上げる細い指先が邪魔くさい。
大きくため息をついて、鞄をごそごそした。
「はい」
一向に拘束をとかない腕の中で距離をとって、口に押し込む。
「ひとつだけか?」
もごもごしながら、問いかけた。
「だって元々お父さん用に作ったものだから」
「手作り?」
「そう」
ふーん、と唸ると彼は艶めいて微笑んだ。
「じゃあおすそわけしないとな」
「はぁ?」
飽きれて振り向くと、ドアップに迫る美顔。
「ぅ?」
空気が凍った。
口内に甘味が流れ込む。溶けかけのチョコレートがコロんと落ちて、揚羽の舌先がそれを攫った。
「ごちそうさま」
素晴らしい笑顔でくちびるのチョコを拭う男に殺意が沸いた。しかしそれを行動に表すより早く、
「先輩……ちょっとよろしいですか……?」
幽鬼のように現れたタタラに抹殺対象は攫われた。
「おい、タタラ!?」
「問答無用です」
ざわざわと小鳥の大群のごとくざわめく教室。
私はハンカチを取りだし、口元を拭いながら感慨を述べた。
「……なんだったのかしら」
BASARA学園は今日も平和です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。とんだおふざけ企画ですが、作者はけっこう楽しかったです。世紀末少女本編では絶対に書けないお話だったので、新鮮というかキャラ壊し過ぎと言うか。ご感想等ありましたら以下フォームからいただけると嬉しいです☆