-白虎村にて、-


始めて彼を意識したのはいつの事だっただろう。
タタラを通して以外には大した繋がりもなかったし、そも私は他人に興味がなかった。
関わりたくなかった。
ただ振り払う必要を感じない、不思議な距離に在る彼に「変な人」と思ったのが最初だったと記憶している。




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吸い込まれそうな満天の星空。
澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込んで、岩の上によじ登る。
村はずれでこんな時刻。自分以外誰もいない。
は珍しく凪いだ気分で、歌を口ずさんだ。

帰りたいのか、帰りたくないのか。会いたいのか、会いたくないのか。好きなのか、嫌いなのか。

その時、不意をついて声が聞こえた。

「綺麗な歌だな」

押し黙り振り向く。
の表情に嫌悪がありありと浮かんだ。しかし彼はへらりと笑うと、無言で歩み寄る。

「何か用?」
「いや、別に」

了承もとらず、一人分空けて隣に腰掛けた。
砂の舞う音が遠く。自分と同じ黒髪が視界の端で揺れた。
思う。彼は異質だ。
それは同じ拾われ子ということを除いても、特殊で。例えるなら『人間』の領域すら超えて、世界さえ歪められそうなほど……考えて眉間の皺を刻んだ。
本当にバカバカしい。
更紗は砂漠の夜のみたいと言った───透き通って冷たいけど、意識がはっきりする、と。私の意見は違う。
本質は闇。
見通せず、関せず、ただ事象として飲み込む。

は気づかない。判李に対して芽生え始めた感情に。
まだ、今は一人分開けたこの位置で。





闇を一塊の風が揺らした。
カンテラの炎が淡く揺れる。
ため息を吐き出し、空を見上げた。

「綺麗だな」

返事は心の中でだけ。
砂が風と踊る音を聞いた。

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2010.03.22




六屋マガリさんに(迷惑構わず)捧げます!
マガリさん宅の企画の素敵さに思わず書いてしまいました。白虎村時代の二人……のつもりです。ツン期のイメージで(笑)
本当にありがとうございました!!