ふたつの世界、ふたりの世界
初詣、白い息、熱を持つくちびる
吐き出す息が白くて、指先が凍えるほど冷たかった。ぐるぐる巻きにしたマフラーから顔を出し手のひらに息を吐き出す。
「冷たい」
「……ほら」
すると真横から差し出された彼の手。
赤く染まった頬は寒さのせいだけじゃない。視線を完全には合わせてくれない照れ屋さん。でも包み込んだ熱。
「ありがとう」
緩んだ頬の命じるまま手をつなぐ。
「んっ」
すると大きな掌が包み込み、彼のコートのポケットにつっこまれた。
そのまま歩いた。
初詣に向かう道。
薄暗い空。
事前に目星を付けていたこじんまりとした神社に向けて歩く。明け方にはまだ遠い、夜中の空気は冷たくて芯まで冷えた。
だけど繋いだ手は温かい。
「ぬくぬく」
嬉しくなって見上げると、綺麗な顔が近づいた。
「って体温低いんだな。頬が冷たい」
繋いだのと反対の手で頬を撫でる指先。それは一瞬躊躇して、くちびるに触れた。
「やだ、くすぐったい」
クスクス笑うと、潤む静くんの瞳。
視界がコートと同じ色になった。
ぎゅーって抱きしめられて離した直後、チュッてした。
誰も見てないよね?
恥ずかしい。でも嬉しい。
「静くん、お外だよ?」
「だってが」
可愛いからいけないんだ。
呟いて、手を引いて歩き出す。
私はきょとんとして、笑い声をあげた。早歩きでついていく。
そして一緒にお参りをして、おみくじを引いて、甘酒を飲んで、ついでに御神酒も。すごく苦そうな顔をしてる。
「嫌いなら無理して飲まなくてもいいんだよ?」
「でも縁起物だし」
甘酒はおいしそうに飲んでいたのに、御神酒は進まない様子だ。首を傾げるとすごくがんばってる顔が見えた。
……止めずに眺める。
年越しお蕎麦作りの時も思ったけど、静くんって案外なんでもできる。一重にご両親の教育がよかったのだろう。
何気なく呟いた。
「今年は静くんのお母さんに会いたいな」
すると御神酒でむせる音が聞こえた。
「お、お袋に、ににに、あ、あ、あ、会いた……い。いい、いいけど、でも心の準備が……俺スーツ着るべき?」
急にテンパり出した背中を撫でて、ほっぺにキスをする。
「自分の親に会いに行くのにスーツ?」
「そ、そ、そうだけど。でも挨拶って、け、け、けっ!!」
「うん?」
わからないフリして小首をかしげた。
次いで頭を撫でると、むっとした顔が近づく。
「ん……んん……っ、こら!」
絡めとられた舌先。
冷たい空気が口の端から進入しあっという間に熱を持つ。
両手で胸を叩いたけど、止めてくれなかった。
閑散とした神社だって、元旦には参拝者も巫女さんも神主さんもいる。神様だって……いる……かもしれない。
だけど静くんは満足するまでずっと私の口内を犯し続けた。
もしかしてこっちの教育間違えた?
「ぁ……ダメ、おしまい。静くん酔ってるでしょ?」
「酔ってない」
とろんとした瞳で言う。
屈みこんで私の首筋に鼻先をすりつけた。
「うまそうな匂いがする」
「美味しそう?もう、ご飯の前の犬じゃないんだから」
「……許してくれるなら犬でもいい」
痛くないギリギリの力加減で抱きしめる。
足が地面から浮いた。
仕方ないな、耳に熱い息を吹きかけて、
「甘えんぼさん」
抱きしめ返した。
そして、
「ねぇねぇあれってシズシズとっちじゃない?」
「相変わらずラブラブで……くっ!」
「……あいつら少しは場所を弁えろよ」
結構多数に目撃されていたことを後日知った。