ふたつの世界、ふたりの世界

水着、再び


日差しは凶悪にアスファルトを照らし、反射熱は地温を上昇させる。
併せて無風。
人々は一足早い猛暑に襲われていた。
そして池袋のとあるカップルもまた。

「静くん暑い」
「……暑いって言うと余計暑くなるだろうが」
「静くんだって暑いって言った」
「ちっ」

リビング兼食卓。
熱気と湿度にダウンした二人がいた。
は首筋に張りつく髪を懸命にはねのけ、静雄はだれている。
全開にした窓からは、隣部屋の排気熱が侵入してくる。
部屋のクーラーはタイミング悪く故障中だった。
本格的な夏が来るまでに直せばいいと高をくくっていた。突然の気温上昇に修理屋に電話するも同じような人々が列をなし、明日までは無理と言われてしまった。

「静くん暑いよ−!!」
「んなに暑いなら水着でも着ればいいだろうが!」

彼女以外であれば即時キレて破壊の権化になっていたであろう危険な表情を浮かべ、静雄は言った。
すると彼女はむくりと起き上がる。
言い過ぎたか?静雄の肩が震えた。
しかし、

「そうだね、着替えてくる!」
「……は?あ、ああ。そうだな、そうしろ」

まさか肯定されるとは思わなかった。
自然と浮かんでくる満面の笑みを堪え、ふらふらと自室に向かう後ろ姿を見送った。





白いふくらみが二つ、タオルを敷いたソファーの上に寝転がっている。重力で少し潰れたたわわな実りに玉の汗が浮かび、流れる。視線を落とせば臍のくぼみに流れ込む。汗が寝返りを打つたびにタオルに吸い込まれた。
うつぶせると今度は臀部が。張りがあって弾力のある丸いお尻は彼の目前で美味しそうに自己主張していた。

「……静くん、近い」

ジト目で見る
ごまかすように天井に視線を向け、煙草を吸った。

「う……暑い、静くん水着なのに暑いよ」
「仕方ねえだろ」

床に座り込み、彼女の寝転がるソファーに寄りかかる。
見上げればおっぱいおっぱい。
───収穫しなくては。熱に浮かされてそう思った。
手を伸ばそうとした瞬間、は起き上がり、物憂げにテーブルへ手を伸ばした。
おっぱいが!静雄の右手がわきわきする。
だけど彼女はそんなことに構わずうちわを差し出した。

「扇いで」
「……は?」
「暑くてどうにかなっちゃいそう」

頬を上気させ、谷間に流れ込む汗を拭いながら言う。
俺もどうにかなっちゃいそう。
言葉を飲み込んで言われたとおりに扇いだ。
ソファーに座る彼女。その下で扇ぐ静雄。
とても良い眺めだった。

「……なあ
「おさわりはダメ」
「ケチ」
「触るだけじゃすまないでしょ、メッ」

考えていたことを当てられ、ぷいっとそっぽを向く。
すると軽快な笑い声が降ってきた。
いたずらっぽい表情で彼女は囁く。

「一緒にシャワー浴びる?」
「当然だろ」

即答し抱き上げようとしたら、暑いからヤダと断られた。





□□□





、水シャワー浴びたら涼しくなっただろ……ならさ」
「ダメ」
「……
「そんな顔しても今はダメ」

はシャワーヘッドを持ち、静雄の顔に水をかけた。

「うわっぷ、なにすんだよ」
「うふふ、涼しい時間になったらね?」

時刻は午後三時。
恋人達の時間まではまだ遠い。
だけど池袋のアパートの一室からは楽しげな男女の声が響いていた。