ふたつの世界、ふたりの世界
電話と喧嘩
原因はささいなことだった。
「静くんのバカっ!」
「の頑固者!」
見つめ合い、ぷいっとそらす。
は瞳に溜まった涙を拭い、振り返らずに自室へ飛び込んだ。背後で、「……あ」口の中で呟きしょぼんと手を下ろした静雄に気づかず。
「静くんのバカバカバカー!あんなに怒らなくたっていいじゃない」
ベットの上の枕をぼふっと叩き、抱え込む。
体育座りをして枕に顔を埋めた。
壁をじっと眺める。徐々に頭が冷え、
「……静くんまだ怒ってるかな」
にじんだ涙を拭いもせず、天井を見つめた。
仲直りしたい、でも謝りたくない。
なんだかんだで頑固なところがあるは一度こじれると素直になれなかった。
小一時間ほど身もだえながら過ごす。
お腹すいたなぁ、思った瞬間携帯が鳴った。
「こんな時に……」
うっとうしそうに手を伸ばし液晶を見る。そこに表示されていたのは、
『静くん♥』
ドアのそばから人の気配がする。普通に話しかければ聞こえる程度の距離。でも電話。
少し迷った後、通話ボタンを押した。
「……」
「……」
双方押し黙る。
次の瞬間大きな音がして、電話を取り落とす音と慌てた声。
思わず素で返した。
「ドア叩いたらダメ」
「……う、そんなつもりはなくて……ごめん」
「うん」
また沈黙が落ちる。
照れくささを堪え、口を開いた。
「どうしたの?」
「……ごめん」
「ドアを叩いたのはもういいよ」
「違う!」
携帯に耳を当てたまま、ベットの縁で足をぷらぷらさせ、枕を抱える。
視線を彷徨わせ、ドアに固定した。
立ち上がる。
そして静かに開いた。
「「……あ」」
電話と生声が重なる。
お互いに携帯を耳に当てたまま、視線をそらせずにいた。
風が吹き抜けて前髪が目元を隠す。
「私頑固かも」
携帯が床に落ちる。
静雄の胸に飛び込み、背中に手を回した。
すると最初は恐る恐る、次いで強く抱き返した腕。
煙草の匂いが鼻をくすぐった。子猫のように腕に甘えて、顔を上げた。
「怒ってる?」
潤んだ瞳で見上げる。
彼は慌ててそれを否定した。
「んなわけないだろ!……俺もあんなことで怒って悪かった。ごめんな」
言って髪を撫でた。
「静くん」
「ん?」
「好き」
彼は何かを堪えるように右手をワキワキさせ、大きく息を吐いた。
「俺も」
前髪をかきあげ、額にキスを落とす。
夕暮れの空が二人を照らしていた。
「でもね静くんやっぱりしゃもじは炊飯器の中でいいと思うの。だってこびりついたご飯がカピカピになっちゃうじゃない」
「は?んなのおかしいに決まってるだろ。普通に米よそったら洗えばいいだろ」
「静くんのいじわる!」
「んだと、の頑固者!」