ふたつの世界、ふたりの世界

アイスクリームを食べよう!


平日の午前十時。
偶然合った休日に、ゆっくりと起き出した朝。珍しく寝ぼけているが目元を擦りながら「……おはよ……うにゅ」と抱きついた。
髪からは汗とシャンプーの匂いがする。
着替えて、炊き立てのご飯を食べ、味噌汁を啜る。
片付けをして、ソファーに座り膝を叩いた。
テレビをつけて、約束の行為をする。

『本日は池袋ナンジャタウン……』
「んっ……静くん……っ」

艶めかしい声を上げ、腰を小さな手が掴んだ。
少し汗ばんだそれは上気した頬と相まって、すごくエロい。

「動くなよ」

冷静を装って、一番奥へ進む。刺激するとの口から吐息がもれた。

「……あっん……ふ」

喘ぎ声に思わず手が止まる。
ふーはぁー。
深呼吸をして高まった心音と下半身を鎮めた。
やべえ、全然収まってねえ。我慢だ、我慢。いつもやってもらってるんだから、たまにはこっちもしてやんねえとな。
耳かき。

「静くん……まだ?」
「おう」

続きを懇願する声に、もぞもぞするのを堪えて答えた。
最初耳かきをするなんて怖くて出来なかった。だがある日シリコン製の耳かきなら俺でも危なくなくしてやれることに気づいた。
画期的発見ってやつだ。

「ほら反対側」
「はーい」

は身体を反転させ、テレビを見ながら返事する。
特集は池袋ナンジャタウン。地元がテレビに出ているとつい気になる。それはも同じだったらしく、俺の膝に寝転び膝頭をさわさわしながら見入っていた。
……誘ってるのか?

「ふぅー、よし終わり」
「ありがとう」

耳に息を吹きかけた瞬間、彼女の身体が小さく痙攣する。しかし何事もなかったかのように起き上がり目元を擦る。次いで伸びをした。
ノースリーブの胸元が押し上げられ、おっぱいの形を強調する。上向きで弾力のあるそれは俺の視線を奪うに充分だった。
すると、

「静くん、目がエッチ」

手を交差させて胸元でクロスさせる。やや頬を染め、乱れた髪の毛。耳かきをしていたせいか潤んだ瞳で、「スケベ」と言いながら上目づかいをした。

の方がエッチだろ」
「……なんで?」

本気で不思議そうに小首を傾げる。細かいところに気がつくくせに変なところで鈍いんだよな……そこが可愛いんだけど。
今日は休みだし、押し倒しても怒られないかな?そうだよな。
だけど振り向くと彼女は笑顔で提案した。

「お出かけしよう?テレビ見てたらアイス食べたくなっちゃった」
「……ん、コンビニ?」

それなら帰ってきてから充分いちゃいちゃできる。
……あいすくりーむぷれい……。
妄想が駆け抜ける。だけど首を横に振った。ついでに胸も揺れた。

「やだ!アイスクリームシティに行きたい」
「ナンジャタウンか?……人多いんじゃねえか」
「平日だから大丈夫だよ」

俺の手を掴んで少し眉根を寄せた。
静くーんと囁きながら人差し指で俺の胸元をぐりぐりくすぐる。
最愛の彼女に可愛くおねだりされてYES以外の答えを出せる男がいるだろうか。俺は無理。
頭を撫でながら頷いた。

「仕方ねえな。人多かったらすぐ帰るからな」
「うん!」

ぱあああああ、と音がしそうなほど満開の笑顔。
照れくさくなって目をそらすと、「静くん大好き」と言って抱きつかれた。
ノーブラで。
先ほどまで俺の膝を誘惑していた柔らかい二つの固まりは、胸筋というわりとダイレクトな部分を刺激した。しかも小さな手が首に回り少し汗ばんだ髪からはなんだかわからないけど良い匂いがする。
……やっぱり押し倒したら駄目かな。
無意識に匂いを嗅ぎまくってたらしく、「わんこじゃないんだから」と笑顔で怒られた。
めっと鼻をつつかれる。
俺の彼女可愛い。
あと柔らけえ。
何食べたらこんな風になるんだ?
次いで立ち上がるのを見送って、出かける準備をした。とはいえ顔を洗って歯を磨いて着替えるくらい。ジーパンの後ろポケットに財布と携帯を突っ込み、テレビ画面を眺めながらの準備が終わるのを待った。
ちょうど始まった映画の予告。普段なら気にもとめないが『主演:羽島幽平』というクレジットに注目する。

「吸血忍者カーミラ才蔵3!激闘×熱戦×組織の秘密!?悪の女幹部とのロマンスの結末はいかに!!」

盛大なあおり文句と共に特殊メイクをした幽の顔が大写しになる。次いで高笑いと共に身体のラインを強調した黒い女幹部然とした女が映り、

「お待たせ」

慌てた様子でがテレビのスイッチを切った。
首を傾げる。

「んだよ?」
「なんでもない!ほら行こう」

腕を引かれたので立ち上がる。後頭部を掻きながら改めて彼女の姿を見た。
シンプルな紺のワンピース。
引き締まったふくらはぎと膝小僧より少し上。めくってくれと言わんばかりに揺れるスカートは、当人曰く大きめで嫌になっちゃうお尻の辺りで膨らみウエストで少し絞られていた。
そして強調していないのに目立ってしまう胸元。真正面からなら問題なさそうだが、俺の位置からは谷間がはっきり見えた。
血管が見えそうなほど白くて弾力があるそれは、俺に指を突っ込みたいという欲望を起こさせる。
ほらパンの発酵?は指つっこんで確認するって前に言ってたよなだから確認を……。

「行かないの?」

斜め下から濡れたくちびるが問いかける。普段より長いまつげが瞬きをし、薔薇色の頬が微笑みかけた。
今つっこんだらすげえ怒られるよ、な。

「……行く」

帰ってきてからやろう。
スニーカーを履き、手を繋いで玄関を出た。
路地裏を出て大通りへ。平日とは言えある程度の人出があった。一端繋いでいた手を離し腕を組む。
そして歩く。
こうやって並ぶと改めて小さいなと思う。
まあ俺と比べれば大体の奴は小さくはある。だけど小柄なは腕の中にすっぽり収まってしまいそうで、可愛いやら不安やら複雑な気持ちになった。

「ん?」

左腕にぎゅっと身体を寄せて、見上げる瞳。
つい弱音を吐いてしまった。

「……なあ、俺って頼りになってるか?」

怖々見つめ返す。
すると鳩が豆鉄砲を食ったような顔で足を止めた。

「静くんってバカ?」
「っなんだよ!?」

声を荒げるのを堪え、でも少し睨んでしまった。
でもは表情を変えず淡々と答える。

「私すごく頼ってるんだよ、わからない?」

心臓がはねる音がした。
雑踏の立てるやかましくて不快な音が消えて世界に二人きりという錯覚に陥る。
顔に熱が集まった。
見られるのが恥ずかしくて手のひらで隠し、明後日の方向を向く。

「そうかよ」

はどうすることもできないくらい俺より大人で、手のひらで転がされているような気がする。だけどそんなところも含めてすっげー好きだからどうしようもない。
後頭部を掻いた。
気を取り直してナンジャタウンへ向けて歩く。地上と地下、迷って地下のルートを選んだ。エスカレーターを降りて動く歩道。あれすげーよな、だって歩道が動くんだぜ!?

「思ったより人が少なくて良かったね」
「だな」

入り口で、「デザート共和国」という名前に誘われかけた。
今日はアイスだよな、アイスクリームシティ。

「デザート共和国は今度ね」
「見てねーし」
「ふーん?」

がキラキラしてる。意地悪をしている時の顔だ。
可愛いなちくしょう。
くちびるに指を当てて、笑うのを横目で見た。

「静くん、あれ食べよう。トルコアイス!」
「おう。あ、二つください」
「すいません、一個でいいです」

なんで?
視線を落とすと胸の谷間が見えた。
いかん、隠さなくては。
手を伸ばしたらたたき落とされた。

「色々食べたいから半分こしよ?」
「……だな」

気分的に痛かった手の甲を摩りながら財布を開く。
次いで銀色の大きな器からアイスを取り出す店員さんを見た。彼はこちらを見てにっこり笑うと、でかいへらのようなものでアイスを取り出す。
すっげえ伸びた。

「……餅!?」
「伸びるね」
「これほんとにアイスか?騙されてるだろ、おい」
「食べたらわかるんじゃないかな」

耳元に口を寄せて問いかけた。
首筋からは柑橘系の香水の匂い。
半信半疑で眺めていると、餅らしきものはコーンの上にのせられ、チョコレートをコーティングされた。
なんでだ!?アイスに溶けたチョコなんてかけたら普通溶けるだろう。やっぱりこれ餅だな。

「静くん……口開いてる」

脇腹をつつかれたので口を閉じて、受け取った。
そして近くの椅子に座り、二人で食べる。
チョコレート餅か、ありだな。
彼女が手を出したので渡し、口を開いた。

「あーん」

プラスチックのスプーンが迫る。
餅が伸びた。
同時にあーんで近づいてくる可愛い顔。落とさないように真剣に、それでいて楽しそうな表情を浮かべていた。
口内に甘くて濃厚なとろける味がする。
これアイスだ!餅じゃねえ!

「んぐ」
「おいしい?」
「……うまい」
「良かった」

花のほころぶ様な微笑みを浮かべ、俺の口元を指で拭う。
人差し指で白い液体を拭い取り自分の口に運んだ。

「おいしいね」
「……次はな」

白い液体と、舐めた。
いかんいかん、興奮を抑え受け取ったアイスをスプーンに取る。

「口開けろ」

しまった、変な風に伸びるから口角の端につけちまった。すると、「もう」と言いながら赤い舌先を出し白い液体を舐め取る。
……もう一回、今度はわざと口の端につけた。
うお!
……あと一回だけ。
やべえ……。

「しーずーくん、もしかしてわざとやってる?」

鞄から出したハンカチで口を拭いながら、すわりきった目が見つめた。
思い切り逸らす。

「……やってねえし」
「静くん?」

にっこり。
音がしそうな笑顔でアイスを奪い取る。
次いで、

「あーん」

今度はスプーンに取らずにそのまま俺の口にあーんしてきた。
当然口では収まりきらず鼻と頬に付く。

「んだよ」
「仕返し」

鈴が鳴る様な声で笑う。
顔を拭うハンカチの感触が気持ちよくて目を細めた。

「子供みたい」
がつけたんだろ」

顔を見合わせ、一緒に吹き出す。
やべえ今幸せかも。
幸福感に浸った。
しかし俺は見逃さない。
がアイスをエロっちく舐めた瞬間、たれた液体。それは白い谷間に落下し、つるりと入り込む。
眼福だった。
焦ってハンカチで擦るのもなんかエロい。
収穫直前の南国果実のごとくたわわんでた。

「服が汚れないで良かった。じゃあ次はマジックアイス食べに行こう!静くんが食べたいのでいいよ」
「ん……じゃあいちごのやつ」

手を取って立ち上がり、次なるアイスへ向かう。
次は太ももにたれないかな……と考えつつ並んで歩いた。







かくしてアイスクリームシティを満喫し帰路。

「楽しかったね」
「ああ」
「どれがおいしかった?」
「……

聞こえないように呟き、並んで歩く。
空はいつの間にか夕暮れ。
紅に染まる横顔が綺麗だった。

「私、食べ物じゃないんだけど」
「ん……ああ」

返答に困り、口をつぐんだ。

「もう」

くちびるを尖らせ、手を引く。
夕日と逆光になり表情が隠れた。

「また、一緒にお出かけしようね」
「だな」

それでも不安は感じない。
なんでもない日常がずっと続くと信じられた。
多分それが事実になる。
長く伸びた影を背負い、そんなことを考えていた。













にしてもの手ってほんと柔らけえよな。家帰ったらおっぱい揉ませてくれるかな。