ふたりの世界、ふたつの世界

冬の帰り道、にゃん!

首筋を凍えるように冷たい風が撫でた。

「ひゃぁっ」

悲鳴をあげるも北風は容赦してくれない。
肌が出ている部分から体温が吸い取られるように消えていく。指先がかじかんで動かなくなり、耳たぶが触ったら粉々に壊れるんじゃないかと思うほど冷えていた。
手を擦り合わせて頬に当ててみるが、無駄な努力にしか思えない。

「冬嫌い!!」

コートの前をかき抱き、前のめりに帰路を急ぐ。
瞬間、ビュウと強い風が吹き涙が出そうになった。
アパートの階段を上り、玄関に手をかける。明かりがついていることにほっとし、出迎える声に涙が零れた。

「遅かったな」
「静くん!!」

昔の漫画も真っ青に靴を脱ぎ散らかし、鞄を放り投げる。
次いで勢いよく抱きついた。
さりげなくコートを脱ぐ。
鎖骨にすりすりと頬を擦りつけ、ジャージの裾を捲って背中に手を突っ込んだ。

「つめてえ!?」
「ぬくい……」
 
はにゃぁーと呟きながらモフモフしていたら怒られた。

「さっさと中入れよ」
「いやにゃーん」
「……にゃーんって何だよ猫か?猫なんだな、じゃあもっと猫っぽくしてみろよ」

怒声に、寒さでやられた頭で考えた。
ぎゅっと抱きついたまま顔をあげ、上目づかいに見つめる。右手を上げて招き猫のポーズをした。

「ご主人様、ご飯まだかにゃ?」
「……にゃ!?」

何故か静雄も一緒に右手を上げたので、指先を猫っぽく舐めてみる。
すると後ずさりした。
調子に乗って欲望をダイレクトにぶつけてみる。

「抱っこ」
「……ああ?」
「静くんご主人様、抱っこして?」

さきほどまでの延長線上のノリでおねだりすると、崩れ落ちた。身体の重みを支えきれず一緒に膝をつく。

「静くん?」
「勘弁しろって……可愛いすぎんだろうがよ」
「……んっ」

褒められた?
じゃあ猫っぽくというリクエストにお答えして!
耳たぶを舐めるとびくんと肩が動き、「覚えてろよ」と捨て台詞を吐いてからぎゅってしてくれた。
静くんは体温が高い。
でも知ってる。幸せなのは体温だけじゃない。
抱き上げられる感触。
心地よい揺れに身を任せて目を閉じる。
キッチン兼リビングは暖房の熱と静くんの体温と、煙草の匂いがした。
窓の外から風の音がする。
冬は嫌いだけど、幸せだった。
笑顔が止まらなくてにやける。

「んだよ」
「あのね」
「うん?」
「静くん、大好き……にゃん」

赤く染まった頬を舐めた。