ふたつの世界、ふたりの世界
指切り
ソファーで煙草を燻らせていると、が背後から真剣な表情で覗き込んだ。
こっちとあっち。
背もたれ一枚分の間がもどかしくて手を伸ばした。
けれど、
するり。
猫の様に身体をくねらせた。
眉をへの字にすると、
「静くん」
「んだよ」
つっけんどんに返したら、くしゃりと表情を歪めて泣きそうな顔をする。慌てて煙草の火を消し、身体ごと振り向いた。
「なんで泣くんだよ、意味わかんねえ」
「静くんが睨んだ」
「お前が避けるから悪いんだろ」
「……悪くないもん、悪く……ない」
言いながらもみるみるうちに涙が溜まり、溢れた。
急いで立ち上がって脇に手を差し込み抱き上げる。今度は抵抗されなかった。そのまま背もたれを乗り越えさせて、膝の上にのせた。
胸に顔を埋めて泣き出した背中をさする。
「んだよ、理由言え。急に泣かれてもわかんねえよ」
するとぴたりと泣くのをやめ、顔を上げた。
瞳から涙が零れる。
「静くんが浮気した」
突然の言葉に固まる。
次いで叫んだ。
「してねえ!!つーかするわけねえし、何をどう勘違いしたらそうなんだよ!?」
「……夢の中で、した」
髪を撫でると少し寝癖がついていた。
がうさぎみたいに赤い目を擦って、鼻をすする。
がっくり肩を落として、
「なんだ夢かよ」
「なんだじゃないもん!私本気でショックで、うっく、静くんが……ひっく」
「泣くなよ。現実ではぜってえしないから心配すんな」
「ホントに?」
子供みたいに見上げる。髪が肩口をすべり、白い肌がほんのり染まった。
ちくしょう、可愛いじゃねえか。泣いても可愛いってどういうことだよ!?
これ反則だろ。ずるすんな。
内心で身もだえ、外見ではかろうじて冷静を装った。
彼女はすん、と鼻を鳴らし小指を立てた。
「じゃあ指切りげんまんしてくれる?」
「んなことでいいのか」
「そんなことじゃないもん。破ったら静くんに針千本飲ませてから家出するからね!」
告げられた言葉に衝撃を受けた。
負けないくらいの声量で叫ぶ。
「嫌だ!!絶対にだめだ!針くらいいくらでも飲んでやる。でも出て行くのは許さないからな!!」
すると小首を傾げた。
「静くんが浮気しなければ出て行かないよ?」
「そっか……ならいいんだ」
浮気なんてしないし。つーか相手もいないしな。
「……自分がモテるってわかってないのも困る」
「なんか言ったか?」
「何も」
涙を拭って、不安げに指を絡めた。
だからしっかりと組み直す。約束の形で見つめ合った。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます、指切った」」
小指を離して、がはにかむように笑う。
可愛すぎたのでソファーに押し倒した。
そしたら頬を思い切り抓られる。
……のケチ。
ぶーたれてそっぽを向いたら、頬にキスされた。