ふたつの世界、ふたりの世界
お姫様抱っこ
は時々変な飲み方をする。
家で飲んでいる分にはそうでもないのだが、仕事の付き合いで飲みに行くと時々こうなる。だが幽曰く「兄さん心配しないで。義姉さんはみんなの前では普通だから」結構な量を飲んでも平気な顔をしているらしい。
だが家に帰ってくると、
「かぎぃかぎは?あれ開かない」
まず鍵を開けられない。
煙草を吸っているとドアの前でバックを漁る音と、変な独り言が聞こえる。
後頭部を掻きながらドアを開けると、
「しじゅくん」
ふにゃりと子猫の様に微笑む。
途端に床に座り込もうとしたので慌てて抱き留めた。
「にゃにゅ」
胸元にすり寄りながら徐々に上に登ってきて、頬と頬を合わせる。冷たかったので逆のほっぺを手のひらで包んだ。
するとすんすんと匂いを嗅いで、
「しじゅくん煙草くしゃい」
「ばーか、お前が帰ってくるの遅いからだろう」
「らって」
「わかったから早く中に入れよ」
こくりと頷いた。抱き留めていた腕を放す。
次いで両手を羽ばたかせてもがく。
パタパタパタ。
しばらく繰り返して、こちらを見た。
「おきれなえ」
「仕方ねえな」
恥ずかしかったのでかったるいフリをする。
けれど脇に手を差し入れ抱き上げた瞬間、
「好き」
「あ?」
「だいすきぃ」
首に手を回して、思い切り抱きついてきたに鼻の下が伸びた。
近所迷惑にならないようにドアを閉めて、しっかりと抱き直す。靴を脱がせて鞄を肘にかけた。次いで抱き上げる。
所謂お姫様抱っこってやつだな。普段は恥ずかしいからやらないけど。
「しずくんはすき?」
「……あ?」
「すきじゃないにょ?」
悲しそうな声音が響いた。
すぐに否定する。
「好きに決まってるだろ」
「わたしもだいしゅき」
胸が温かくなる。
同時にムラムラした。
断じて幼児趣味なんてないが、呂律が回らないは可愛い。可愛いのでヤリたい。
ベッドに寝かせて、服を脱がせてこのまま一回くらいなら許されるんじゃないか?
……いや……それは……男としてまずい……よな。
しかし、
「しずくぅん」
「おい、服離せよ」
「いにゃん」
のんきな寝顔の彼女に服の裾を掴まれたせいで動けない。
深夜1時、静雄の葛藤はいつまでも続くのだった。