ふたつの世界、ふたりの世界

(目一杯デレデレしつつ)「困っちゃうよな、ほんとにさ〜」

 久しぶりの帰省をした。
 歩いて帰れるほどの距離にあるものの、一人暮らしを初めて以来ほとんど帰っていない。
 そんな実家に帰ってきている。弟の幽が珍しく休みがとれたというのでそれに合わせる形の帰省だ。
 しかし今回はそれだけではない。なぜなら──

「母さんと義姉さん、うまくいっているみたいだね」
「まあな」

 鼻の穴が広がりそうなのを堪えて、相づちを打った。
 弟は寡黙に頷くと、昔のように冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注いでくれる。

「夕飯はすき焼きだって母さん張り切ってたね」
「ああ、の手料理はうまいけどお袋が作る料理も久しぶりだし、楽しみだな」
「うん」

 あるかないかの微笑みを浮かべた幽に、静雄はふと思った。

「そういえばお前ちゃんとしたもん食ってるか?」

 同棲を始める前の自分をさておき、お兄ちゃんを発揮した静雄。

「うん、外食が多いけどその辺りはマネージャーの卯月さんも気をつかってくれているし。もちろんさんほどじゃないけどね」

 珍しくからかうような笑顔を浮かべた弟に、気の抜けた顔をみせた。
 そして他人には決して言わないであろう愚痴をこぼす。

「でもさのやつはちょっと口うるさいところがあるからさ」
「そうかな」
「あいつ、面倒見がいいだろ? それはいんだけどよ、たまに別にいいじゃねえかって思うことで怒ったりするんだぜ。この前もが仕事で三日間空けたから毎日カップラーメン食ってたんだよ。したらすっげー怒られてさ」
「うん」
「お昼だってどうせファーストフードだったんでしょ? っていわれたら一日はラーメンだったって答えたら、一日二回もラーメン食うなってさ」
「義姉さんらしいね」
「だろ、でもそんなことで怒らなくてもよくないか?」
「そうかな」
「そうだよ。と住む前は毎日そんなもんだったしさ……困っちゃうよな」

 全然困っていない顔でそんなことを言う。
 幽はそれをほほえましい気持ちで眺めながら、考えていた。

『兄さん、さっきから後ろで義姉さんが仁王立ちしているよ』

 いつ告げようかと首を捻りながら。