ふたつの世界、ふたりの世界

恋人が欲しい?じゃ、理想の恋人像教えてやるよ

 何の因果か、竜ヶ峰帝人と紀田正臣はバーテン服の男と向かい合って喫茶店の座席に座っていた。
 帝人は、一緒に鍋パーティーに参加したことがあったこともあり、やや緊張するに止まっていたが、正臣は普段の軽い雰囲気がなりを顰め、肩に力が入っている。
 だが目前の男がパフェを食べながらプリンを注文し、砂糖が大量に入ったカフェオレを飲み始めたのを見て、唖然とした。さらに会話の流れがどうなってそういうことになったのか、話題は静雄の彼女談義に移る。

「そういえば静雄さんと一緒に歩いていた綺麗な女の人が、彼女なんですよね」
「お前、知ってるのか?」
「ええ、セルティさんに聞きました」
「まいったな」

 そう、そんな流れだった。正臣は心中で親友を小突きつつ、話題に乗る。

「り、理想の彼女って感じっすか?」
「……理想、そうだな。どうかなあ、理想か……」

 考え込んだ静雄に、正臣と帝人は目を見合わせた。
 困っている風を装っているが、全然装えていない。ニヤニヤしすぎだ。
 お前突っ込めよ。勘弁してよ。
 そんなアイコンタクトを繰り返した。正臣は状況を打開するために親友を差し出す。

「こいつ、好きな女の子に告白の一つもできないんですよ。ここは一つ静雄さんからビシっと言ってやってください」
「正臣!?」

 上手いこと水を向けた。帝人の狼狽する様子を横目に見つつ、視線を戻す。そこには大魔神がいた。
通常平和島静雄を大魔神と称する時は、彼を激怒させたときであろう。だが今は、噛み殺しきれない笑みに溢れ、幸せ100パーセント、ニヤニヤ大魔神であった。

「悪りぃけど、俺には告白云々についてのアドバイスはできねえ。そういうのは、門田とか得意なんじゃねえか」
「門田さんですか!?」
「ああ、高校の頃とかよく校舎裏でバッタリ会ったし、きっと得意なんじゃねえの」

 それはするほうじゃなくて、される方なのでは……思ったが口に出せなかった。なんといっても今は機嫌が良いとはいえあの平和島静雄だ、怒らせると後が怖い。曖昧に頷くと、神妙な中にも鼻歌が混じりそうな声音で言った。

「だから俺は理想の彼女を説明してやるよ」
「「はあ」」
「んだよ、聞きたくねえのか?」

 店内の雰囲気が重くなる。慌てて答えた。

「いえいえ聞きたいっす、超聞きたい! な、帝人も聞きたいよなぁ?」
「はい、お願いします!」

 背筋を伸ばす。すると雰囲気が一気に柔らかくなり、咳払いを一回。そうして彼の演説が始まった。

「まず理想の彼女っていうのはな、可愛い。笑顔も可愛いし仕草も可愛いし怒った顔も可愛いし、泣いているのは……困る。でも可愛いな。そんでもって料理がうまい! ついでにプリンまで作れるんだぜ、すごいだろ!!」

 それって理想の彼女じゃなくて、自分の彼女なのでは……? 呆然としていたら睨まれた。
 慌てて頷くと、満足そうに口を開く。そしてその後一時間ほど理想の彼女、ならぬ自分の彼女自慢を繰り広げ、後輩達をおおいにゲッソリさせた。
 後日談があるとすれば、その話を聞いたに、「大人げない」と仁王立ちで怒られたことくらいだろか。