ふたりの世界、ふたつの世界

お花見の日

指先を絡めて歩く。
見上げれば抜けるような青空。
そして薄紅の桜花。時折舞い落ちる花びらに口元を緩めた。

「んだよ、ニヤニヤして」
「ニコニコって言って!」

ぶーっとくちびるを尖らせ、繋いでいるのと反対の手で彼の脇をつつく。

「くすぐってえよ」

金色の髪を揺らしくしゃりと笑った。それを見ていたら幸せな気持ちが溢れて、繋いだ腕に身体を寄せる。すると静くんの身体がもぞもぞと動き、

「なあ、……おっぱい……当たってる」

と呟いた。

ふたり一緒の休日。部屋の中でゆっくり過ごしても良かったけれど、季節は春。満開の桜と晴天にお花見することを決めた。
静くんが実家近くに穴場があると言うので、歩いて向かう。
おにぎりには彼の好きな具材を入れ、あまーい卵焼きを焼いて、エビフライを揚げた。
そうしてお花見場所にたどり着き、小さなビニールシートを広げる。
見上げるほど大きな桜の大木。並木道も綺麗だけれど、こういうのも悪くない。
お弁当を広げると、彼の瞳が輝いた。

「はい、しゃけのおにぎり」
「おう」

美味しそうにかぶりつく。
三口でぺろりと食べてしまった。口の端についた米粒を取ってあげながら、注意する。

「よく噛んで食べないと駄目でしょ?」
「次からな」

言いながら卵焼きに手を伸ばす。口いっぱいに含んで、幸せそうに頬を緩めた。

「お袋とは違う味だけど、これもうめえな」
「お母さんはしょっぱい派?」
「まあな。最初は変だって思ったけど、慣れると甘いのもいいな」

二個目に伸ばした手を叩く。

「んだよ」
「卵ばっか食べ過ぎ」

箸でブロッコリーをつまみ、差しだした。

「エビフライのほうが……」
「あーん」
「チキンナゲット……」
「静くん、あーんは?」
「……あーん」

しぶしぶ口を開き、眉間に皺を寄せながら咀嚼する。
ごくんと飲み込み、缶チューハイのプルタブを開けた。

「プハッ」
「じゃあ私も飲もっと」

缶ビールをあけて、コツンと乾杯。
ふわり、舞い降りた桜の花びらが静くんの鼻の上に落ちた。