平和島家の長女

窓の外から朝日が差し込む。
白い肩が布団から這い出し、傍らで眠る男を揺すった。

「京平、お腹すいた」

日本人にしては色素薄い髪がふわりと揺れる。ずり落ちかけたタンクトップが小さな胸を隠していた。
男は生あくびをかみ殺し、彼女を抱き寄せる。

「んだよ」
「おはよう。お腹すいた!」

甘い声音で囁くのを無視して、要求のみ述べる
京平はため息をつき、起き上がった。するときらきらと輝く瞳。

「朝ご飯何?」
「待ってろ」

頭を撫で立ち上がった。
彼女は「待て」をされた犬のように見つめる。
しかし、

「あー悪い、買ってくるの忘れてた」
「えー!?食べ物ないの?」

責める口調に、眉に皺が寄った。

「つーか帰ってくるときはメールくらいしろよ」
「したし」
「家の前で、着きましたじゃ意味ないだろうが」
「……だって、急に時間空いたんだもん」

掛け布団を人差し指と親指で抓みながら上目づかいをする年上の恋人。
可愛らしい仕草に頬を僅かに赤らめ、明後日の方向を向く。
窓を眺めながら気を取り直し、

「外行くか」
「牛丼がいい!」
「……って意外とそういうの好きだよな」
「だってドイツにはないし」

言いながらもぞもぞと着替え始める。
短パンを脱ぐ。白い太ももがまぶしい。
タンクトップに手をかける。引き締まった腹部と永遠に発展途上な胸が
……、

「見るな、スケベ!」

枕がクリーンヒットした。





□□□





「京平、私牛丼汁だく?にしたい!」
「つゆだくな。店員の前で絶対間違えんなよ」
「なんで?」
「なんででもだ」

目を離せば先に行ってしまう彼女を追って、京平は早足になる。
牛丼屋をキラキラした目で見つめているの手を取って、店内に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」

店員の声を聞きながら、人影まばらな席に着く。
カウンターに並び、オーダーを決めた。
京平は牛丼大盛り卵付き。は牛丼と味噌汁。鼻歌を歌いながらメニューを眺めるのを、満ち足りた気持ちで見つめた。そして数分後、湯気を立てた牛丼が二人の前にやってくる。
箸箱から二膳取り出し、に差し出す。
ところが食べようとした瞬間、

「あれ、門田さんじゃないッスか」
「ドタチンが色白美少女連れてる−!?誰誰!?」
「もしや門田さん家のベランダに落ちてきた!?」
「でも修道服じゃないよ」
「イベント前にまさかの遭遇!これがフラグ!?」

やかましく入店してきたのは、狩沢と遊馬崎だった。

「……お前ら」

京平は呆れ、は無言で牛丼を食べる。
しかし反応に構わず、彼らは興味津々を観察した。次いで狩沢が核心的な一言を問いただす。

「で、ドタチン誰誰?」
「ん……ああ」

頬を掻き呟く。

「静雄の、姉貴」
「「ええー!?」」
「お前ら、店の中では静かにしろよ」

騒がしいが、親しげな雰囲気。
は無視して完食したどんぶりをカウンターに置く。財布を取り出して自分の分だけ払い、立ち上がった。

!」
「どうせ私はただの静雄のお姉ちゃんですよ!」

ぷい、とそっぽを向き出口に向けて歩き出す。

「順番に説明しようとしただけだろうが」
「お姉ちゃんですから」
「おい」

千円札を一枚取り出し、カウンターに置く。つりを受け取ろうともせず後を追った。
だが店を出る直前、振り返る。

「静雄の姉貴で、俺の彼女だ」
「「彼女!?」」

ニヤニヤ顔でハモる仲間に背を向けて、店を飛び出した。





「ドタチンってばニブチンだよねぇ」
「何がっすか?」
「俺の彼女、って言った瞬間お姉さんの顔が赤くなったの気づかなかったでしょ?」

怒る女と追う男の後ろ姿。
狩沢は卵をかき混ぜながら、楽しそうに笑った。






狩沢さんたちの反応が見たい!というご感想をいただいたのを思い出したので書いてみました。二人は多分イベント前。
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