平和島家の長女

彼女の日常(高校時代を振り返る)

ふんふんふーん♪ と鼻歌を歌っていたら折原と目が合ったので殴った。
不意打ちの腹パンは綺麗に決まったけど、連係で放ったアッパーはギリギリで躱される。膝を折って地面に転がった彼を見下ろして腰に手を当てた。

「折原のくせに生意気よ!」

青空を背景にふんぞり返ったら、

「白……か」

満足そうな顔で息絶えたので、後頭部を踏んづけてやった。

***

人ラブ! 俺は人間を愛してる!
だから俯瞰して見るのも好きだし、混沌とした集団に紛れるのも好きだ。
その点学校は面白い。稚拙な愛憎が入り乱れ、社会の縮図を作り出す。
その全てを俺の世界に閉じ込めて、掌の上で操れたら楽しいと思わないかい?
そんなことを考えながら歩いていたら、突然殴られた。
逆流した胃液を飲み込み、襲い来る次発からかろうじて逃れる。

「折原のくせに生意気よ!」

獅子崎先輩がいるときは、借りてきた猫みたいに大人しいくせに。素の彼女は、静雄以上に質が悪い。
実に楽しそうに笑う姿に、辛酸をなめさせてやりたいと心の底から思った。
でも俺はこんな子供には付き合ってやらない。もっとスマートに仕返しをしてやるのさ!
膝を折るフリをして地面に顔を寄せる。

「白……か」

呟くと、沸騰したヤカンのごとく顔を染めて俺の後頭部を踏んだ。
次に目覚めた時見たのは、知らない天井保健室だった。

***

学校からの帰り道、空腹に暴れ出しそうな腹部を押さえて眉を寄せた。

「お腹すいたー」

獅子崎君の前ではできない、大きなあくびをして後頭部を掻く。彼が家の都合で一瞬間ほど休みのせいで、可愛い子ぶりっこにも気が入らない。
お腹すいたと呟きながら歩く。
そしてゲームセンター前で、一人の後輩に目をとめた。
最近会う機会が減ったが、中学からの仲だ。
UFOキャッチャーに臨む背中にダイレクトアタックを仕掛ける。

「かーどーたっ!」

えーい☆
と勢いを付けてぶつかると、引きつけを起こしたかのように痙攣し振り向いた。お化けを見たように頬をヒクヒクさせて目を泳がせる。
強くぶつかり過ぎたかな?
誤魔化す為に微笑みを浮かべた。

「久しぶり!」
「せ、先輩?」
「うん、先輩だ! 敬え!」

えっへん! と胸を張るとすごい勢いで目をそらされた。
失礼な。

「何してるの?」
「暇つぶしです」
「ふーん、うん?」
「な、なんすか?」

手で自分と彼の背の高さを測る。
しかし何度やってみても、

「門田、大きくなった?」
「はぁ……成長期なんで」

そういえば静雄も一時期、寝て起きると背が伸びていた。

「ところで門田、お菓子取らないの?」
「は? えーとこの景品ですか?」

UFOキャッチャー内にぶら下がる袋詰めのお菓子を指すと、彼は頬を掻きすぐにコインを投入した。
ワクワクしながら見入っていると、見事にゲットした。
たくさん入ってるし、一個くらいくれるよね! と期待に満ちた目で見つめたら、袋ごとくれた。
門田ってば出来た後輩だわ!

***

ゲーセンで暇つぶしをしていたら、暴漢に襲われた。
他校の襲撃かと構えたら、先輩で珍しく一人で、可愛い笑顔で俺を見上げていた。
心臓に悪い。
さらにゲームで取ったお菓子をあげたら、「いいの? 今更返してって言われても返さないよ? ホントにいいの? やったー!」と激しく可愛い顔で喜んだ。
……。
……。
……っ!!









門田は真っ赤に染まった顔を掌で隠して、足早に家路に着いた。


2013.02.17