平和島家の長女
小さい頃の話でも
台所から見える窓の外、強い風が吹いて赤茶けた木の葉が落ちた。
私はほかほかの湯気が立つ肉まんにかぶりつき、溢れた肉汁にやけどしかける。
「あちちっ」
ふーふーと冷まして、二口目。
そんなことをしながらリビングへ行くと、静雄がしょぼくれていた。庭が見渡せる大きな窓の前で、カーテンにくるまって膝を抱えている。
しかも隠れてるのは腰まででお尻は丸見え。全然隠れてない。
そういえば弟はバカだった。だからこの肉まんは分けてあげない。
しばらく壁の端から観察していると、突然横向きに倒れた。でもカーテンに中途半端にくるまっていたせいで、上手く脱出できず絡まって変なことになっている。
最初は普通にカーテンを解こうとしていたけど、抜け出せない。すると頭に血が上ってきたのか、カーテンが内側からぽこぽこ変形し始めた。
面白いけど、そうも言っていられない。
だって静雄がカーテンを破ったらお母さんが怒る。
黙って見てたのがバレたら私も怒られる。
明日のおやつが抜きにされるかもしれない。それは困る。だから助けてやらなくもない。あくまでおやつの為に。
だけど、
「……お兄ちゃん」
最近感情表現がわかりづらくなってきた末の弟が、私とは反対の扉から出てきた。そして丁寧に静雄に絡まったカーテンを解いてやった。
私は出て行くのを止めた。
「ぷはっ……幽ぁ」
でもカーテンから顔を出した途端、泣き顔と怒り顔の間くらいの表情で固まった。
幽は表面上冷静に見えたけど、困っている雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「はぁ」
私はため息をついて、駆け出す。
そしてジャンピングアタックで弟達に飛びかかった。
「うわあ!?」
静雄の叫び声と幽が息を飲む音が聞こえる。
窓に激突しそうになった幽の後頭部を手の平で包んで守った。
すると、
ゴンっ。
と痛そうな音が響く。
「いってええ!! 何しやがる!?」
「うるさい!!」
後頭部を押さえて涙目で私に向かってくる静雄。
額と額を付き合わせてゴリゴリ押し合う。それを十分ほどやった後、痛さのあまり止めた。
静雄の額が赤い。多分私の額も赤いのだろう。
静雄は弟のくせになんて生意気なのだろう。将来こいつに彼女が出来たら悪行の限りをチクってやることに決めた。
静雄が叫ぶ。
「姉ちゃんは理不尽なんだよ」
一応、一過性の怒りは覚めたらしく暴れない。
私は馬鹿だなーと思って肩を落とす。そしてソファーから毛布を取ってきて、二人目がけて掛けた。
「ぷはっ!?」
まあ怒りそうだったので、自分の膝と肩を叩いた。
「幽は膝、静雄は肩ね」
「は? ……へ、いや俺は」
「うるさい!」
叫んで、強引に幽を自分の膝へ寝かせ、静雄に肩を貸して上げた。しばらくもごもご言っていたけど、すぐに大人しく寝息を立てる。
ほんと世話の焼ける弟達なんだから!
「ふぁあ」
「ねえ……」
「うん……幽もお休み」
でも私もあくびが出て、瞼が重くなる。
うとうとして、次の瞬間には夢の世界。いつの間にか帰ってきたお母さんに起こされるまで、三人でお昼寝をしたのだった。
2013.12.15