ふたつの世界、ふたりの世界

眠れる森の静雄

*茨姫パロです。

昔々あるところに、とても仲の良い王様とお妃様がいました。

「セルティ!私たちの愛の結晶、君の和顔愛語が見られるだけで幸せではち切れてしまいそうだよ!」
『人前で恥ずかしいことを言うな。それとなごやかな表情と親愛の情がこもった言葉づかいというがそもそも私には顔がない』

白衣の王様と、首から上がない王妃。
そして、

「頭上でぎゃーぎゃーわめくんじゃねえ!」
「いたたたたたた、頭蓋骨が危険な音を立てて、ぎゅご!?」
『ほどほどにな』

金髪に明るい瞳、白い肌。ピンクのドレス。
それは絵に描いたような、

「うるせえ!!」

池袋最強のお姫様でした。
今日はお姫様の誕生を祝うパーティー。魔法使い達が静雄姫に祝福の魔法を授けます。

「私はお姫様に徳を差し上げます」
「私は美を」
「私は萌えを」
「私は富を」

こうして魔法使いはお姫様に人が欲しがるものを全て与えました。

「俺は……」

最後の一人が口を開いた瞬間、「姫の情操教育上悪いから」という理由で呼ばれなかった魔女が城に現れます。

「俺をのけ者にして鍋パーティーだなんて、良い度胸してるよねえ。そんなお姫様に素敵な情報屋さんからプレゼントフォーユー!」

そう言って姫に呪いをかけました。

「姫が二十三になったらつむに指を刺して死んでしまうのさ!」

あはははは!言うが早いか煙のように消え、

「ノミ蟲てめえ、池袋には来るなって行っただろうがあ!!」

る直前どこかから現れた自販機が魔女に激突しました。
カエルが潰れる様な音が響き、驚いた王妃がなだめている間に悪い魔女は煙のように消えてしまいます。

「これは驚天動地、奇々怪々。セルティ、仕方ないからもう一人子供を作ろう!これで解決だね」
『ふざけるな』

王様達は悲しみにくれました。
するとまだ魔法をかけていなかった、魔法使いが言います。

「あいつの魔力が強すぎるせいで、俺にはこの呪いを解く事はできない。だが『死』ではなく『眠り』に変えることはできる。お姫様は二十三才の時つむで指を刺し眠りに……ってお前ら聞けよ」

ニット帽を被った魔法使いはため息をつきました。
町中にあるつむは王様の命令で全て燃やされてしまいます。こうしてお姫様は逞しく育ちました。

そして運命の二十三の誕生日がやってきます。
お姫様はイライラしていました。

「うぜえ」

煙草を片手に、塔の階段を登ります。
なぜならお城は禁煙。唯一の喫煙場所がこの塔だったのです。
塔の頂上にたどり着きいつものように煙草に火をつけようとした瞬間、

「ああ?お前らどこから入った」

怪しい二人組がつむを持って萌え談義に花を咲かせていました。

「今期はやっぱりタイバニでしょ、おじさん萌え−!バニーちゃんのツンを返してっ」
「一押しは青薔薇様っす。桂先生のキャラデザ最高!」

静雄姫は怒るのも忘れ、呆然と彼らを眺めています。
二人はしばし異世界言語を叫んだ後、くるりと振り向きました。

「「可愛いお嬢ちゃん、我々は糸をつむいでいるのだよ」」
「……てめえら何言ってるんだ?」

コメカミがぴくぴくと痙攣し、マジでキレちゃう三秒前。そんな表情に遊馬崎は狩沢に小声で話しかけます。

「狩沢さん、そろそろまずいっす」
「マジで?」

彼女は立ち上がり、姫に近づきました。

「シズシズも糸つむぎをやってみたいでしょ?」
「……別に」

女に暴力を振るう奴は最低だ。
暴れたい衝動を抑え、煙草に火をつけます。

「じゃあ手の甲に刺しちゃえ、そーれ!」
「あ?」

ぶすり。
ネブラ社製つむが姫の手の甲に刺さりました。

「つむ×シズっ!無機物×有機物萌えーっ」
「逃げるが勝ちっす」

静雄姫が驚いている間に、二人は消えてしまいます。
吸い殻を携帯用灰皿に押し付け消しました。

「んだこれ……あー接着剤買ってきてからの……ほう……が……やべっ」

強烈な眠気に、つむを強引に引き抜き傷口を破いたドレスで塞ぎました。
かくして静雄は眠り姫となり、百年の長き眠りに落ちます。
その結果、城は茨に包まれ出入り不能の廃墟と化してしまいました。





百年後。
隣国の王子は、黒髪美形な魔女の訪問を受けていました。

「つまり魔女さんは私に茨姫とやらを助けに行って欲しいってこと?」

魔女は表情を一ミリも動かさず頷きます。

「兄さん、もとい静雄姫を助けられるのは、義姉さん、間違えました王子だけです」
「言い直しが多いのが気になるけど、突っ込まないでおくわ。それより百年も前に原因不明の疫病で滅びちゃった国にどうして私が行かなくてはいけないの」
「滅びたわけではありません」

抑揚のない口調で淡々と。
曰く全ては眠りについているだけで、姫を起こすことができれば元通りになる。

「でもそれを私がやらないといけない理由がないじゃない?」
「……これを」

魔女は懐から一枚の写真を出しました。
最初は不審そうな表情だった王子も、一目見るなり立ち上がります。

「姫を助ける方法を教えて!」
「では」

一振りの剣を渡しました。
こうして姫に一目惚れした王子の冒険がはじまります。




□□□





そして王子は困難の末、塔の最上階にたどり着きました。
白いズボンは茨で穴だらけ、右肩の袖は破けて取れてしまっています。ついでに腹チラまでしていました。

「長い冒険だったわ」

茨にひっかけないように束ねていた髪を解きます。さらりとした感触が頬を撫でるのに目を細め、最後の扉を開きました。
待っていたのは、豪奢な天蓋付きベットに横たわる姫。
ピンクの布を右手の甲に巻き、規則的な呼吸を繰り返しています。金色の髪が実に百年ぶりに照らされ、キラキラと輝きました。
整った横顔に王子は魅入ります。

「写真より好みかも……」

ほわんと頬を染め、近づきました。
ベットに手をかけ、真正面から彼を見ます。すると切れ長の瞳が痙攣しました。

「……ん?」

首を傾げると、髪が静雄の首筋をくすぐるように通過します。

「ひゃっ」
「もしかして起きてる?」
「……ぐーぐー」

わざとらしい寝息に、「ふーん」と呟きました。前触れもなく頬にくちづけます。次いで耳たぶに、さらに首筋。
そのたびに小さく揺れる静雄の身体。
は大胆にも姫のドレスをくつろがせ、鎖骨を舐めあげました。

「……やめっ」

瞳が開き、身体の上にまたがった彼女と目が合いました。
彼は後に語ります。びびっときた、と。

「おはようございます、お姫様」
「……ああ」

猫のような双眸、桜色のくちびる、小柄だけど引き締まった四肢、なにより丸くて大きな胸とお尻。
一目惚れでした。

「……結婚してください」
「今日会ったばかりの人にそんなこと言われても?どうしようかなぁ」

は小悪魔的微笑みを浮かべ、反応を待ちます。
はだけたドレスをかき抱きながら、絶望の表情を浮かべた静雄。
しかし、

「嘘だよ、私もあなたが好き。だけどまずはお付き合いからね?」

曇天から差し込む太陽のごとく。彼の表情に光が差しました。

「……ところで、お姫様は王子様のくちびるへのキスで目覚めるって相場で決まってるんだから。ちゃんとやり直して?」
「わかった。んっ……。え?あ、おいっちょっと待て。それなんか違……っ」
「問答無用♥」

静雄姫の童貞喪失目覚めと共に、長い眠りについていたお城の魔法がとけます。
こうして二人は王様とお妃様となり、末永く幸せにくらしましたとさ。
めでたし、めでたし。