[ …チョコ味 ]
「静くん」
「……?」
「ちゅー?」
「ちゅ、ちゅー?」
「うん」
「うん?」
休日。
とくに何をするでもなく過ごしていた。
しかし突然、「甘いものが食べたい」と言い出した彼女についてコンビニへ向かう。
「一人で行ってくるよ」
という言葉は、
「ヤだ」
即座に断った。
そして並んで歩く。
初秋だというのにやけに強い日差しに少しイライラ。
だけど、「暑いなら手をつなぐのやめる?」「……ヤだ」そんな会話をして。
「暑いね」髪をかきあげる仕草に心臓が跳ねた。
しかしてコンビニでチョコレート、ついでに幽が表紙を飾る雑誌を購入した。
「幽くん、やっぱりかっこいいよね」
「……」
ムカっと音を立てて機嫌が傾く。
幽が悪いわけじゃない。
が悪いわけでもない。
けど、
「静くん」
くるりと振り向き、笑顔で繋いだ手を引かれた。
不機嫌に答える。
「……んだよ」
「いいから」
路地を右へ、そこは小さな公園だった。
しかして冒頭に戻る。
人目につきづらい場所。チョコレートのパッケージを開く音がした。
「んっ、いいよ」
一粒口に含んで、閉じられた瞳。
透き通るように白い肌に朱が差し、香り立つ色気。
甘いカカオが鼻孔をくすぐった。
「え、あ?」
「ん……」
ここは外とか、まだ明るいとかそういうこと全部どうでも良くなった。
腰を抱き、屈む。
くちびるが柔らかく、甘い溶けかけの。
「……チョコの味」
「イライラした時は甘いものがいいんだよ」
その笑顔に、
「……帰るぞ」
「はぁーい」
この場で押し倒したい欲望と理性の、大バトルを繰り広げることになったのだった。
ちくしょう、なんでこんなに可愛いんだっ!