*7巻の話です。本編より先の時系列の為、未来の出来事になりますがあくまで現時点での仮定です。本編が同じ流れになるとは限りません。
言葉より確かなもの
静くんに後輩ができた。
ヴァローナさんというロシア人美女だ。
彼女は人目を引く胸と腰を持ち、その上強い。
何せ静くんに車サッカーまでさせたほどだ。存在感はお墨付き。
公式カップリング一押しはたぶん彼女だろう。
私さえいなければ。
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痛い。
心に真っ黒な墨が落ちた。
だけどそんな感情は純白の布で覆って隠してしまおう。
嫉妬は醜い。
感情は怖い。
……怖くて醜いのに。
隠しきれない。
「?」
彼女に缶コーヒーを渡し、慌てて追いかけてくる。
でも振り向きたくない。
「!!」
肩を掴まれた。
最近ではなかった力加減を間違えた、馬鹿力で。
「っ!」
顔をしかめると静くんはしまった、という表情で手を離した。
コンナササイナコトデコワレテシマウカモシレナイワタシヨリカノジョノホウガミリョクテキ?
嫉妬は醜い。だけど止まらない。
「悪ぃ」
目の端に浮かんだ涙を隠して「大丈夫」微笑む。
涙は身体の痛みじゃない。
押しのけて立ち去ろうとした。
けれど今度は力加減をして掴まれた手首。開けた神社でよく探したと思える目立たない場所、連れ込まれて覆い被さる影。
覗き込んでささやいた。
「俺のせいか?」
指先で隠したはずの涙をぬぐった。
「違う」
「俺のせいだろ。肩、ごめんな」
言葉に黙って首を振る。
精一杯の笑顔で否定した。
「静くんせっかくできた後輩を放っておいていいの?」
「より大事なものなんてない」
真摯な瞳。
怖いほどに。
ささやく言葉は優しく心を包むけど、闇は晴れない。
もし私がいなかったら?
出会えなかったら?
私は本当はこの世界の異物なのに。
本当は彼女かもしれないのに。
疑念は消えなくて。暗くて怖い。
いつか飲み込まれてしまうかもしれない。
そしてこの世界から……。
思考が真っ黒に染まる直前、くちびるを塞がれた。
「んっ……しずく……っ」
それは三回ついばむように私に触れ、次第に深く。
舌先がゆっくりと進入し絡む。
熱い塊が口内を這い回った。
息ができない。
離れた、息を吸い込む間もなく塞がれた。
「「きゃー!!」」
マイルとクルリの黄色い悲鳴が重なり響く。
「静くん、見られてる……」
「黙ってろ」
もう見えない、聞こえない。合わさるくちづけ。
深く、深く、深く。
差し込まれて、離れて、今度は瞳を舐めて。
暗く沈んだ心も、愛も、欲も、全部混ぜてしまった。
「静雄さんラブラブ!?」
「……熱……」
「あちゃー、周りが見えなってんな」
「むぅ、見えないよ」
「日本では成人指定制度が存在すると確認しています。現状は規制に該当。肯定してください」
喧噪と世界はキスで溶け消える。
私、本当に静くんが好きで好きで好きで。
「、愛してる」
抱きしめて、強く。
世界が音を立てて揺れた。