[キス魔って言うけど]

彼女は何故か怒っていた。
頬を朱に染め、見上げる瞳は潤む。膝の上にのしかかり、右手はソファーに沈んで。
煙草の煙がかからないように、上を向いて吐きだした。

「静くんっ」

しかし桜色のくちびるが強請るように責める。
青のキャミソールにカーディガンを羽織っただけの服装でそう覗き込まれると……。

「たに……なんでもねえ」
「谷?」
「だからなんでもねえよ」
「……怪しい」

眉間に皺を寄せた。
返答への間を空けるため、の腰を左手で支えテーブルの灰皿へ煙草を押しつける。
そのまま両手で腰の辺りに手を当てた。……断じて偶然お尻に触れたらいいななんて思ってない。
ソファーの背もたれに身体を深く沈めて問いかけた。

「で、んだよ?」
「だーかーらっ」

小さな手が俺の肩に触れる。柔らかい太もも、甘いにおいのする首筋、時折くすぐる髪の毛。

「私はキス魔じゃないんだから」

反応するのにたっぷり十秒はかかった。

「……は?」
「だからキス魔じゃないの!」
「俺、が何言いたいのかわかんね」

したらばぷりぷり怒った。
ぷりぷりと言えばただいま目前でぷりぷりしてる胸元というかおっぱい。揉んじゃだめかな?……だって柔らかそうだし。事実柔らかいし。
待てよこの距離感だと手が入らない、じゃあ。

「……静くん?」

やべ、すごく怒ってる。人差し指で右胸を突いたのがだめだったか?左ならいいのか。

「真面目に聞いてっ!そんなことだから杏里ちゃんにさんはキス魔なんですか?なんて聞かれちゃうんだからっ」

恥ずかしそうに瞼を伏せた。
長いまつげとほんのり赤みを帯びた頬が誘う。
盛り上がった気持ちのまま、顎に手をかけくちびるを塞ごうとしたら、

「だめ」

手の甲で防がれた。

「キス魔じゃないって証明してみせるんだから!」

そしては妙な意気込みでもって宣言した。



……嘘だろ。