[キスの快楽]

家に帰るとがぺろーんとしていた。
思わず普段なら玄関で外すサングラスもそのままに、ソファーで寝ている彼女に歩み寄る。

、こんなところで寝ると風邪ひくぞ」
「……んー静くん?おかえり」

テーブルには半分程度開いたワインボトル。ジーパンにキャミソール一枚で頬を上気させ見上げていた。

「……水飲むか?」

手持ちの鞄を床に置き、キッチンへ。
しかし服の裾を引っ張った腕。

「やだ」
「んだよ」
「やだぁ!静くんだっこ」

上半身だけ起こしてうつぶせに手を伸ばしていた。
キャミソール一枚で。
ブラジャーもつけず。

「バ、馬鹿お前胸が」
「胸が……揉みたいの?」

丸くて白い全貌がふわふとと揺れていた。
やべえもうちょっと動いたら……見えるっ。
だが全部見える寸前、俺のシャツをちょこんと掴んだまま起き上がった。
反対の手で目元を擦りながらシャツを引っ張る。

「静くんだっこ」

水を飲ませないと、は酔っ払っている。
頭の中の冷静な部分が吹っ飛んだ。ここまで我慢したんだ、襲ってもいいんだよな?そうだよなあ!
はやる気持ちを抑えて優しく抱きしめた。
鼻先をくすぐる髪の毛からは女の匂いがして。
引き締まっているけど柔らかいお尻に手を添えた。

「……ん」

顎を上向きに目を閉じる。それにくちづけようとしてサングラスをしたままだということに気づいた。
外してとりあえず床に。

……好きだ」
「私も」

くちびるを合わせると赤ワインの味がした。
数回合わせて、少しくちびるを開くと彼女の舌先が入ってくる。口角をずらして迎えて。
事に及ぼうとした瞬間、悲劇は起きた。
位置を変えようとして床に足を着く。
次いで破壊音。
サングラスが、割れた。頭を掻く。

「っ、やっちまった」
「まだシテないよ?」

酔っ払い独特の潤んだ瞳で見つめる。
さらりと首筋を流れた髪。
舐めたい。
じゃなかった。

「サングラス割っちまった」
「え?」

酔いが覚めたのか慌てて俺の足下を見る。
次いで瞳を瞬かせ上目づかいをした。

「明日お休みよね?一緒に買いに行こう」
「……あーでも給料日前だしな」
「プレゼントしてあげる」

前に突きだしてきた両手を反射的に握る。
女の手ってなんでこう柔らかいんだろうな。

「でもよ」
「お代は身体で払ってもらいます」
「……お前まだ酔ってるだろ」
「そんなことないもん」

いたずらっぽい顔で舌を出すのが可愛くて。
割れてしまったサングラスをひとまずテーブルにまとめて置いて、を抱き上げた。

「今日は俺の部屋でいいだろ?」

でも身体で払うってナニすれば払ったことになるんだ。
考えながら歩き出した。