[雨の中でびしょ濡れのまま]

夜半、雨足は速度を増して。
叩きつけるような豪雨が降り注いでいた。
そんな中バーテン服の男が公園で一人たたずむ。
金色の髪から絶え間なく水がしたたり落ち、青のサングラスに降り注いだ。ワイシャツはびっしょりと濡れ、肌にはりつく。
けれども彼は動かない。
微動だにせずバケツをひっくり返したような雨を浴び続けてた。
それがせめての贖罪だと。
しかし小さな影が歩み寄った。
は透明なビニール傘を静雄に差し掛ける。背中が濡れてしまうのも気にならなかった。

「トムさんに聞いた。風邪ひくよ」

すると彼は寂しそうに笑った。

「化け物は風邪なんてひかないだろ」
「怒るよ」

つま先立ちで傘を差し掛けたまま、肩に手をかけて顔を近づける。ぐっしょりと濡れた頬を手のひらで拭って、サングラスを外した。
傷ついた瞳と視線がぶつかる。
だけど逸らさない。
ぽたぽたと流れる水滴を。
拭っても、拭っても流れ落ちて。
彼女は傘から手を離した。
途端に強い雨に打たれ、濡れ鼠になる。静雄は慌てて傘を拾おうとする。

っ、何やってるんだ!?」
「静くんと一緒にしたの!一緒なら風邪でもなんでもいい」

拾おうとするのを止めて、背伸びをして、すがるようにベストを掴んだ。
覗き込む静雄と見上げる
豪雨ですら二人を遮ることはできず、
耐えかねたように口を開いた。

「俺……に触る資格なんてあるのか?」
「馬鹿!!」

怒鳴り声を雨音が隠した。
ぐい、引っ張ってくちびるを合わせる。
見開いた目を見つめて、睨むように。
首の後ろに両手を回し、離れられないように深いキスをした。

「んっく……んっ……っ」

雨の味と唾液が混ざり合い、口の端から溢れる。
離れて、

「静くんの馬鹿……」

胸に顔をつけて泣き出した。
静雄は肩を抱くのを躊躇した。
だけど、

「……馬鹿」

弱々しい声を聞いて、こみ上げた気持ちそのままに抱きしめた。

「ごめん」
「謝って済むなら警察はいらない」
「どうしたら許してくれるんだ?」
「抱っことちゅーしてくれたら」
「……ここから家まで?」
「ダメ?」

見上げて小首を傾げる仕草に、心臓を射貫かれた事実を隠して、仕方ねえな……呟いて抱き上げてからくちびるを重ねた。
帰路、雨のせいか人影はなく彼らを不審な目で見るものはいない。歩きながら二人にだけ聞こえる声量で話した。は静かに耳を傾ける。
そして玄関の前で頬にくちづけた。

「おかえりなさい」
「……ただいま」

扉を開くけば二人の部屋があって。