[間接キス]

鍋が煮立つコトコトという音。
カレーのルーを刻んで、静かに落とす。次いで広がる芳香。
静雄は立ち上がり、エプロン姿の彼女の腰に手を回した。
後ろから抱きつき、しゃがんで肩口に顎を乗せる。

「甘口がいい」

するとはいたずらっぽい笑顔を浮かべ、

「だめ、今日は中辛」
「んだよ、口から火が出ちまうだろうが」
「でも静くんが作ってくれるカレーはいつも中辛じゃない?」
「……それはが」

辛いのが好きだから。
語尾を濁して彼女の耳元にくちびるを寄せた。


「ん」

「はーい?」


お玉でくるくると鍋をかき混ぜながら返事をする。
犬のように首筋の匂いを嗅いで目を細める恋人をいなし、カレーの味見をした。
少し考えた後静雄に差し出す。

「牛乳と一緒じゃないと食わねえ」
「静くんは私と間接ちゅーしたくないの?」
「いただきます」

即答し、小皿を受け取った。
怖々舐める。

「辛っ……くねえ?」

小首を傾げた。
甘口カレーと愛しい笑顔を見つめる。

「中辛って言ったのは嘘だよ」

は鍋の火を止め、振り向きくちづけた。