もしもシリーズ

  1. 平和島静雄の運転
  2. モデルになった平和島静雄

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2011.11.08

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平和島静雄の運転

心臓の鼓動を鎮める為に、大きく息を吸い込み吐きだした。
次いで車のエンジンをかける。
力を入れすぎないように気をつけてハンドルを握り、ブレーキペダルを緩めた。

「よしっ」

ゆっくりと発進する。
駐車場から車を出し、彼女が乗り込むのを待った。
車の外で胸をなで下ろす仕草をするのが見える。助手席の扉が開く音に振り向いた。

「大丈夫?」
「おう」

鼻歌混じりに返事をし、「ちゃんとシートベルトしめろよ」と注意をした。
初めてのドライブデート。否が応にもテンションは上がる。
静雄は逸る気持ちを抑え、左右の確認をしてから車を発進した。





都心を抜けると車通りが減ってきた。
最初は心配そうに眉をひそめていたも、今は楽しげにお茶を飲んでいる。

「喉渇いたら言ってね?」

ちらりと見ると、水筒片手に笑う可愛い笑顔。
俺の彼女が俺の運転する車に乗っている。
胸にこみあげてくるものがあった。にやけそうになるのを堪えていたら無愛想な返事になる。
怒ったか?不安になる。だけど彼女は微笑んでいた。
改めて免許をとって良かったと思う。こうして二人でドライブデートをするのを夢見てがんばったかいがあった。
教習所で運転に苛ついてハンドルを折ったこともあったし、いちゃいちゃするのを想像して知らずハンドルを折ったこともあった。
だが俺は運転免許を手に入れ、車を運転している!
静雄は今度こそ隠しきれず、正面を見たままニヤニヤと笑顔を浮かべた。
それを見たはお茶を吹き出しそうになるのを堪えて、ほころぶような笑顔を浮かべる。

「今日はいっぱい楽しもうね」
「おう」

返事と共にアクセルを踏み込む。
道行きは順調だ。
そして一時間ほど、目的地の海が見える駐車場に車を止めた。そしてベンチに座り並んでお弁当箱を開く。
お手製運動会風豪華弁当。
エビフライ、唐揚げ、甘い卵焼き。三角のおにぎり、タコさんウィンナーと色とりどりに。
静雄の瞳が子供のようにキラキラと輝いた。

「うめえ」
「ほんと?」

勢いよく食べ過ぎて喉を詰まられた彼に、お茶を差し出す。一気に飲み干し一番大きいエビフライを箸で掴んだ。

も食えよ。ほら」
「ありがと、あーん」
「あーん」

ぱくり。
桜色のくちびるが開き、太いエビフライの身をくわえた。
……違うんだ、一番大きいエビフライにしたのはきっと大きい方がうまいだろうと思っただけで、下心なんてなかった。本当なんだ。静雄が一人煩悩しているうちに、彼女は食べ終わっていた。
気を取りなおして、事前に友人に頼んで人が少ない穴場を選んだかいがあったとひとりごちる。セルティには世話になってばかりだ。いい加減何か礼をしたいよな。
考えながら眺める。おにぎりを一口食べ、すっぱい顔をした彼女。まじまじと見つめていると、「見ないで」と目をそらされた。
───こいつの可愛さって何なんだ?限界とか存在しないのかよ。天井知らずってこういうとき使う言葉なんだろ?
桃色の脳みそは惚気以外をはき出さなかった。

「そろそろ寒くなってきたね」

呼びかけに我に返る。
弁当箱は片づけ終わって風呂敷の中だ。
そんなに長い間ぼーっとしてたのか?
が身震いしたのを見て、抱き寄せる。確かに頬が少し冷たいな。
手のひらで確認した。
車に戻ろう。
手を引くと、微笑んで立ち上がった。
そして車に乗り込み、スピーカーから流れるラジオ放送に耳を傾ける。
流れる緩やかな選曲。
運転席と助手席の間で手を繋いだ。
指を絡める、解く。
また絡める。
指先にくちづけるとくすぐったそうに笑った。

「幽くんって多彩よね」
「あいつはすげえからな」
「静くんの弟だもんね」
「……俺と違ってすげえんだよ」
「そんなことない。静くんもすごいよ」
「……そうか?」

照れて頬を掻く。
ラジオから聞こえるのは羽島幽平の声。つまり幽。
無言の時間を弟の声が埋める。
車の外では夕日が沈み始めていた。

「綺麗だな」

すると妙な間があって、何故か体育座りになった彼女。

「静くんありがとう」
「んだよ」
「綺麗なもの、見せてくれてありがとう」

頬が赤いとしたらきっと夕日のせい。
それに景色よりの方がずっと綺麗だ。
思ったけど言えない。

「……
「うん」
「なあキスしても……いいだろ?」
「……ダメ……って言ったら?」

答えにしょぼんとする。
静雄が耳のたれた犬のように身を縮めた。
鈴が鳴るように心地よい笑い声が車内に響く。次いでは運転席に向けて身体を伸ばした。
頬に手を当ててくちづけ。
初めは啄むように軽く。徐々に深く。
気づけば静雄は助手席と運転席に間を乗り越え、彼女に覆い被さっていた。
レバーを引くと、がたんと音がして助手席が倒れる。

「……静く……ん、っ……外、から見えちゃう……から」

だけど一度ついた炎はそう簡単には消えない。
密室で二人きりというシチュエーションもあいまって静雄は、

「こーら!ダメだって言ってるでしょ!!」

チョップされた。
本気で涙目になる。
……なんで駄目なんだよ。ちょっとくらいいいじゃねえか。
しっぽが垂れた。

「……なんで?」
「外から見えるでしょ、バカ!」

荒い息を整えながら、胸元をかき抱く
そそる光景に目を奪われながらも、理性を総動員した。
確かに他の奴にそんな姿を見られるなんて許せないよな。
結論を出せば行動は早い。
運転席に戻って、エンジンをかけた。
───早く家に帰って、家で……。

「静くんのエッチ」
「……口に出てたか?」
「出してた!」

気が焦っていたせいで、助手席に手をついて、車をバックにいれたのを彼女が恍惚の瞳で見ていたことに気づかなかった。
家に着く。
またドライブ、付き合ってくれるかな。許してもらって仲直りのちゅー。玄関先でくちびるを重ねながらそんなことを考えていた。

モデルになった平和島静雄

平和島静雄はモデル出身の人気タレントだ。
少々無愛想なところもあるが、仕事に対する態度は真面目。長身で涼やかな美貌を持つ。
俳優の羽島幽平と兄弟であることも相まって今や知名度と人気はうなぎ登り。最近ではクイズ番組への進出によりその天然っぷりに心奪われる女性視聴者も多かった。
そんな彼には秘密がある。
「平和島静雄」という表札が出ている控え室。

、なあこれどっちがいいと思う?」
「そうね……右かな」
「じゃあそっちにする。着せてくれ」
「甘えないのっ」

衣装選び。
小柄な女性がつま先を立てて背伸びをし、彼の鼻を抓んだ。抓まれたほうは怒りもせずヤニが下がった表情を浮かべた。
平和島静雄の秘密、それはマネージャーと付き合っていること。しかも姉さん女房で相思相愛。彼女が好きで好きで仕方ないさすぎてめろめろという事実だった。
手帳とにらめっこしながら背を向けた小さな身体に抱きつく。

「こらっ」
「構えよ」
「あのねぇ。……構ったらちゃんと一人で準備する?」

控え室の鏡台を指さした。
彼は頷き、直後に柔らかいくちびるに吸い付く。思う存分貪って、ようやく離れた。

「甘えん坊」
「だって番組始まったらといちゃいちゃ出来ないだろ」
「当たり前でしょ。それにこういうことは家に帰ってから!」
「今がいい」

にらみ合って、同時に吹き出す。
二人の関係が事務所にバレたのが先月のこと。
がクビになるかもしれない、焦った静雄は社長に直談判し揉めに揉め今の状況に収まった。
マネージャーと同じマンションに住んでいるというのは対外的に無理があるのではないか(しかも二部屋借りているのは体面上の問題で実質的な同棲だ)という意見もあったが、幽の協力も得てなんとかした。
静雄の首に細い腕がまわる。
深くくちづけて、最後に頬を舐めた。

「ファンデーション落ちちゃうでしょ」
「だってうまそうに見えるだろ」
「美味しくない!」

は鏡台に向けて押し出し、手帳を拾った。しぶしぶ準備を始める静雄。
ひとしきりの身支度を整え、振り返る。

、髪やってくれ」
「はーい」

小走りに駆け寄る。
ワックスで整えスプレーで軽く固めた。
ひなたぼっこをする犬のように目を細めていた静雄は不満そうに見上げる。

「もう終わりかよ」
「いい加減スタジオに向かわないと遅刻するわよ」
「んだよ」

しぶしぶ立ち上がる。
控え室のドアに手をかけた瞬間、袖を引かれ振り向いた。

「……静くん、今日もがんばってね」
「ああ」

衣装に化粧がついたら大変だから抱きしめられない。
口紅がついたら問題だからキスできない。
代わりに見つめた。
彼女の瞳が不安気に揺れている。

「今日、あの子……一緒だけど浮気しちゃだめだからね。携帯も教えたら駄目」
「……あ?……ああ、あいつか」

しばらく考えて思い出した。最近やけに懐いてくる年下のアイドルのことを言っているらしい。人気急上昇中でテレビでもプライベートでもモテモテ、らしいが年下という時点で許容範囲外。そもそも以外の女に興味はない。良くて妹みたいなもんか。
静雄は考えながら、頷いた。

「興味ねえし」
「……うん」
「んだよ、俺が信じられないのか」
「信じているよ」

不安がぬぐえない顔で俯く。

「だけど綺麗な子ばかりだし……しかも静くんかっこいいし、心配なの。ごめんマネージャー失格だね」
「んなことねえよ。俺はがいるから今までこの世界でやってこれたんだ。それはお前が一番知ってるだろ」

視線が甘く絡み合った。
控え室に向かって走ってくる足音に我に帰り、抱き寄せようとした腕を下げる。

「じゃあな」
「行ってらっしゃい」

平和島静雄は人気急上昇中のタレントだ。
女性ファンも多い。また無口で怖そうな外見と反して面倒見が良く優しい。
本気のアピールしてくる女性も多かった。
だけど彼の心は今も昔も一人の女性が握っている。

「たとえどんな女が寄ってきても、俺が好きなのはお前だけだからな」

らしくない言葉に、顔が燃えるように熱くなる。
静雄は返事を待たずに控え室を飛び出した。