ノンストップラプソディ【サンプル】

平和島家のカレー

一人で使う分には余裕のある台所も、二人で並ぶと狭く感じる。
そもそも静くんは大きい。
細身なので圧迫感はないが、何を食べたらこんなに育つのか不思議なほどの長身だ。今もつんつるてんのエプロンの裾を引っ張っている。
彼と視線を合わせようと、精一杯顎を上げて見つめた。身長差のせいでそれだけで一苦労。でも静くんに見下ろされるのは嫌いじゃない。

「静くんおっきいね」

私が小さいわけではなく、静くんが大きすぎるのだと言外で主張して見上げる。
すると何故かぱっと頬を赤らめズボンをゴソゴソし始めた。冷たい目で、「身長のことだよ?」と言うと、「わ、わかってら!」と全然わかっていなさそうな顔で答える。
しばらく冷たい目で見つめてあげたら、ますます顔が赤くなった。
変な性癖にでも目覚めたのだろうか? 私はマゾじゃないけどサドでもないはずだ。だから静くんがマゾだったとしても私のせいじゃない。
こほんと咳払いをして、仕切り直す。

「それはそうと、作るよ! 平和島家のカレー!」
「おう! ……って平和島っつーかのカレーだろ」

二人で握り拳を振り上げる。
突っ込みを入れられたので、答えた。

「結婚したら平和島じゃない」
「けけけけけけけけっ!?」

謎の奇声を発し、大きな身体を折り曲げて床につっぷしてしまった静くんを放って、材料を揃える。
すると彼は地面を凝視し何かを指折り数え始めた。

「……結婚式にはトムさんと社長を呼んで……セルティと、新羅も呼んでやるか。でも金がねえ……社長に頭下げるか」
「静くん!」

声をかけると、勢いよく起き上がり両手を掴まれた。
キラキラした瞳が眩しい。あとちょっと力加減を間違ってる。
手の骨が変な音を立てた。

、結婚式は白無垢とウェディングドレス、どっちがいい!?」
「静くんならどちらでも似合うよ」
嬉しさを堪えて、さりげなく手を離した。動揺してあがった息を整え、腰に手を当てる。
「さて静くん、まずは野菜を洗うよ!」
「え? あ、んあ」

静くんは熟睡中にたたき起こされたような顔でぽかんとした後、人参を手に取った。
それを横目で見て、緩む頬を隠した。
例えばお金なら幽くんだって喜んで貸してくれるだろうに、頼ろうとしないお兄ちゃんなところとか。でも色々考えて私の意見も聞いてくれるところとか
フライパンとまな板の準備をする。野菜を綺麗に洗い終わったのを見届け、皮むきを渡した。褒め言葉も忘れない。

「静くんすごーく上手!」
「……んなことねえけど」

否定しつつも、鼻の穴が広がっていた。
頭を撫でようと手を伸ばすが届かない。背伸びをして再挑戦した。しかし静くんが背をまっすぐにしたせいで失敗。
プルプルしながら再度手を伸ばすと楽しそうな顔で見下ろしていた。

「もういい!」

頬を膨らましてそっぽを向くと、慌てた声が降ってきた。

「ごめん、があんまり可愛いから意地悪したくなった」
「ふーんだ、謝ったって許さないんだから。静くんのばーか、おたんこなす、あほー!」

思いつく限りの罵倒をすると、肩を掴まれた。
ウドの大木は言い過ぎだったかもしれない。恐る恐る視線を上げると、彼は口元を右手で隠して視線を逸らし震えていた。

「……、お前」

次いで勢いよく抱きつかれる。

「可愛いな、おい!!」

さらに抱き上げられた。一気に視界が上がり、天井が迫る。

「ちょ、静くん! 天井にぶつかる!!」

するとくるりと回った後、地面に下ろしてくれた。
私は肩で息をしながら顔をあげ、涙目で胸を叩く。

「バカバカ! 吃驚するじゃない」
「だってが可愛い……」
「それは嬉しいけど、って違う! なんで今するのよ!? 台所でこんなことしたら危ないじゃない」

叱責すると、静くんは肩を落としてしょぼくれた。
ちらちらっと捨て犬のような瞳で見てくる。しばらく見つめ合いとにらみ合いの中間のようなことをしていると、顔が近づいてきた。顎に手を添えられ、切れ長の瞳が迫る。腰を落として私と目線が合うくらい背中を丸めた。

「……ん」

静くんが腰痛にならないか心配。
鼻先に息がかかるほど近づいて、まぶたを舐められた。伏せると数回啄むようにキスが落ちて、

「ってこらー!」
「ちぇっ」

ごく自然にくちびるへのキスに移り、さらに舌を入れられたことで、正気に返る。
静くんは悪戯が失敗した悪ガキみたいな表情で頬を掻いていた。めっ! と叱って料理中は別のことをしない、という約束を再度する。そうして途中三度ほどくちびるを奪われながら、カレーは完成した。
時々、静くんの方こそ、サドっ気があるんじゃないかと思う。

「米、どれくらい食う?」
「お茶碗一杯分くらい。ルーは?」
「肉、大盛りで」
「お肉と野菜大盛りね」

皿の中央に丘のように盛られた白米目がけてルーをよそった。最後に福神漬けを添えて、ランチョンマットの上にカレー皿をセットする。向かい合って座り、手を合わせた。

「「いただきます」」

カレーとライスを少しだけ混ぜて、口に含む。口の中いっぱいにスパイスが広がり、ジャガイモがほろりと崩れた。

「うめえ!」
「おいしいね」

目を合わせて二人で微笑んで、カレーの匂いに包まれた。





ノンストップラプソディサンプルです。
ふたつの世界、ふたりの世界短編集。コンセプトはデュラのキャラクターをなるべく多く出そう、でした。結果として人目もはばからずいちゃつくふたりのお話ができあがっています(臨也が高いところから落ちました、ごめん)ほのぼの日常が半分、多少動きがある話が一話、デュラの他キャラと一緒にキャンプをする話等があります。
なお、名前変換用サイトを用意していますのでもし良ければそちらもどうぞ(冊子にアドレス記載)
自家通販は今月中には受付を締め切りますので、ご希望の方はお早めにお願いします。