平和島家の長女×ふたつの世界、ふたりの世界
- 玄関口の遭遇
- お姉さん?
- おめでとう
静雄夢と平和島家の長女のコラボです。
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2011.01.28
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玄関口の遭遇
一塊の風が首筋を吹き抜けた。
「寒っ」
思わず身震いをする。
マフラーで口元を覆い指先を擦り合わせた。
腕に下がる紙袋には苺のケーキがワンホールが入っている。別に弟の誕生日だからとかじゃない。自分が食べたいから買っただけだ。
それに静雄のことだから誕生日を忘れてカップラーメン食べてるに違いない。私も姉としてそんな状態で放っておくほど鬼畜じゃないし。普通のことを普通にやってるだけだ。
幽も時間が空いたら一緒お祝いしたいって言っていたので、奮発してお寿司でもとってやりますかね!
考えてインターフォンを押した。
そして迎えた姿に固まる。
「はーい」
やや高めの声。細身でちょっと猫っぽい顔立ちの女性だった。
彼女はひよこさんのアップリケが付いたエプロンをなびかせ、私と顔を見合わせる。
その間三杪。
女性は静かな殺気をにじませ口を開いた。
「失礼ですがどちらさまですか?」
「え、あの、え!?」
笑顔が怖い。
美人の笑顔とか怖すぎて近年ない恐怖を感じた。
……というかその前に、静雄の部屋から出てきて、ひよこさんで、美人が出てきた?
なんで、静雄ついに誘拐しちゃった?お姉ちゃんはそんな悪い子に育てた覚えありません!!
パニくってたら声が聞こえた。
「、誰かき……姉ちゃん!?」
「お姉さん!?」
ぼさぼさの髪。シャツにジャージという明らかに寝起きの姿。
見比べた。
ひよこさんのエプロン。静雄に向かって振り向いた瞬間肩口を流れた髪。
驚く彼女。
私は携帯を取りだし、通話ボタンを押した。
コール音が三回。
繋がった。
「あ、京平?明日の天気ってなんだっけ、晴れ、そう。ありがとう」
おい?何かあったのか、問いかけを無視して電話を切る。
切って震える手を押さえ、現実を直視した。
「し、静雄誕生日おめでとう」
「へ!?ありがとう」
ケーキを渡す。
渡しながら驚いた表情で固まっている彼女を一瞥した。
視線を感じたのか私を見て、にこっと笑う。
結構可愛い。
可愛い、けど。
ぎぎぃーと首を捻り静雄に向かい合った。
「か、か、彼女?」
「あ、ああ。。一緒に住んでる」
肩に軽く触れ、紹介された。その事実に二重に驚く。
静雄が女の子に触った……。
とりあえず中へ。というさんの言葉で靴を脱いだ。
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お姉さん?
彼女の第一印象は静くんが好みそうな女性、だった。
肩の上で切り揃えられた少し癖のある髪。意思強そうな瞳は包容力が強そう。
そして右腕にぶら下げたケーキらしきもの。
今日は静くんの誕生日。
静くんは忘れてたから朝のキスで思い出させてあげた。
朝から彼の年齢分のキスをして、朝ごはんを食べて、一緒にくつろいで。
そんなひと時に現れたのが彼女だ。
驚いた顔のまま固まっている。
私の心は暴風雨に見舞われていた。
静くん浮気なんてしないよね?してないよね?もし浮気だったら子供作って失踪する。
だがその思案はひょこっと顔を出した静くんの言葉で破られた。
「姉ちゃん?」
……お姉さん?
え、静くんってお姉さんいたっけ?
ひとまず部屋に入るよう促して、お茶を沸かすために台所に立った。
「静雄、彼女と暮らすなら暮らすで一言くらい」
「そんなこと言うなら姉ちゃんだって高校の時……っ」
ボソボソはっきりと言い争う声に、よく似た姉弟だなと思った。
久しぶりに原作知識を思い出してみる。静くんには弟しかいないはずだ。
いないかずだけど……しばらく様子を伺って決意する。
静くんが嬉しそうだから気にしない。
お姉さんは現実問題としてここにいる!だとすれば私の行動方針は一つ。
「ミルクとお砂糖使いますか?」
「は、はい!お願いします!」
畏まった様子の彼女に微笑む。すると静くんが照れた時とそっくりな仕種で顔を赤らめた。
「ぷっ」
静くんが吹き出すのと同時にガツンという衝撃音が聞こえ、彼女が裏拳を放った。
武道派なのね。
静くんは口先だけ怒って、内心で喜んでる。やっぱりMなのかなと考えながら彼女に話かけた。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。弟さんとお付き合いさせていただいている、と申します」
「あの、こちらこそ!平和島です。よろしく」
顔を上げると静くんが盛大に照れていた。
可愛いなぁ。
手が勝手に頭を撫でていた。
するとさんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
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おめでとう
幽へ
お姉ちゃんは砂を吐いて死ぬかも知れません。
出来たらとか言わず早く来て!
姉より
静雄が立ち上がった。新しいお茶を汲みに行ったようだ。
静雄が立ち上がった。皿を取りに行ったようだ。
うちの弟がこんなに甲斐甲斐しいわけがない!
口の中で呟き魂魄を飛ばす。
京平に明日の天気は晴れ時々飴だっけ?とメールしたら、いますぐ駆け付けて来そうだったから断った。
現実から目を反らす。
「静くん苺あげる、あーん」
「あーん」
ぱく。
私が持参した苺ケーキ。綺麗に切り分けられお皿に盛られた。
そして一番大きい苺をどっちが食べるかで延々と揉める。
が食べればいいだろ。
弟が譲る。
でも結果はあーん。ぱく。
静雄の口に入った。
大きな苺が幸せなのか彼女にあーんしてもらったのが嬉しいのか。頬袋に食料を詰めたリスの様だ。
一体いつから君はペット状態に……!
こんなことになるなら私が食べるって言えば良かった!
見て見ぬふりをしながら顔に縦線を走らせる。
耐えること三十分。遅れて現れた幽を盾にして団欒を続けた。
しかし、
「お義姉さん」
末弟の一言が空気を変えた。
え?明らかに今さんに向かって言ったよね。何それ確かに二人が結婚したら幽にとってはお義姉さんかもしれないけどでもまだ姉じゃないし、っていうか姉は私だし!!
不機嫌に黙り込む。すると、
「姉さん、はい」
出前のお寿司。
いくらと幽とお箸と醤油。
あーんをしろと?
弟と?
静雄固まってるし。
「違った?」
こくん。
首を傾げた。
濡れ烏羽色の髪が砂のように流れ落ちる。
黙って口を開けた。
近づくいくら。ぱくり。
口内で潰れるいくらの感触としゃりの絶妙な風味。日本食ってやっぱり美味しい。
「幽ばっかりずりぃ」
なぜか静雄まで私の口元に持ってくる。
イカ。
……自分が好きなネタはくれないのね。
「あーん」
あきらめて口を開いた。
今度はイカの淡白な風味と咀嚼する度に感じる歯ごたえ。
幽が持ってきただけあっておいしいなと思った。
幹也さんが連れていってくれたお店と同じくらいの値段がしそう。
考えてながらさんを見た。
すると彼女は、「俺の方がうまいだろ?」「姉さんはいくらが好きなんだよ。だから俺の方が美味しい」よくわからない言い合いをしている静雄をうっとりと眺めていた。
瞳を細め、薔薇色に染まった頬。
弟が意味不明な主張する度に小さく頷く。
揺れる髪。
この人本当に静雄が好きなんだなと思った。
考えてちょっと照れる。
あの日以来、静雄と他人の間には目に見えない境界線があった。
どんなにもがいても、苦しんでも、弁解しようとも誰ひとり超えられなくて。
何も悪いことなんてしてないのに世界が隔たった。
悲しかった。
救い上げたかった。
だけど私に出来たのは彼が全ての重責を背負わない様に、少し軽くしてやることだけ。
でも彼女が境界線を超えて抱きしめた。だから静雄は世界に歩き出せる。
瞬間、瞳からこぼれ落ちた。
「げ、姉ちゃんなんで泣いてるんだよ!?」
「姉さん!?」
静雄がテーブルをひっくり返しかけ、幽が珍しく大きく表情を動かした。
だからうっすら滲んだ目元を拭って、
「まつげが目に入った」
「なんだ」
「……良かった」
「目薬使いますか」
ティッシュを受け取って、目配せに答えた。
さんにだけはバレたみたい。
涙を拭って、まつげをとる振りをして。
そして、
「静雄、誕生日おめでとう」
小さい頃みたいに頭を撫でた。
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