ふたつの世界、二人の世界 未来編

  1. しゅっぱーつ!
  2. 電車×電車!
  3. 黒いおじさん
  4. 大好き!
  5. 和花のにっき

静雄夢の未来編です。ふたりの子供(双子)が出て来ます。平和島家の長女とも少しコラボしてます(静雄にもしもお姉さんがいたらという程度の認識で読める……はず!)
娘:平和島和花(のどか)八歳、やや天然。息子:平和島圭(けい)顔立ちが叔父に似てる。ちょっと苦労性。
あらすじ:双子が二人で池袋の幽の家に行くお話。

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2011.01.28

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One

とある地方の駅構内。
三十代中頃の夫婦が自らの娘息子に言い含めていた。特に父親は心配そうに眉根を寄せている。

「ティッシュとハンカチは持ったか」
「うん、パパ」
「財布と携帯電話も持ってるよ」
「二人とも、今日は喧嘩しちゃだめよ?」
「「はーい」」

対照的に楽観的な母親。
その言葉に少女は天真爛漫に、少年は冷静に答えた。
母親───は子供達の前で屈み頭を撫でる。

「楽しんできてね」

圭は照れ臭そうに頬を掻き、和花は目を輝かせた。

「ママ、行ってきますのチューは?」
「はいはい」

まずは和花の頬に次いで圭のおでこに。
羨ましそうに眺めていた静雄が問いかけた。

「和花、パパのチューは?」
「和花はもう小学校なんだからパパとはチューしないんだよ」

天使の微笑みに肩を落とした。は忍び笑いを堪えながら子供達を送り出す。

「マネージャーのおじさんの顔は覚えてるわね?池袋駅のホームまで迎えに来てくれるから幽くんのお家まで連れていってもらうこと。いいわね?」
「はーい」
「圭、和花が迷子にならないようにずっと手を繋いでいてね」
「うん」
「和花迷子にならないもん」

プンプン怒る娘と使命感に燃える瞳で見上げる息子。
未だに心配そうな夫の横腹をつつき電車を見送った。

「「いってきまーす」」

そして車両が見えなくなるまで手を振る。
静雄は未だに曇った表情でに言った。

「本当に二人で池袋なんか行かせて大丈夫か?やっぱり次の電車で追い掛けて……」
「心配性なんだから。電車で一本なんだし迷うわけないわよ。それにその為に幽くんがホームまでお迎えよこしてくれたんでしょ?」
「だけどよ」

なおも言いつのろうとした。すると二の腕にふにっとした柔らかい感謝が押し付けられる。
視線を落とすと、相変わらず魅力的で下半身に直撃する潤んだ瞳が見上げていた。

「静くんは私とふたりじゃイヤ?ママになったらもう魅力ないかな」

相変わらずは間違いだった。彼女の魅力は年をへるごとに増している。
静雄は生唾を飲み込んだ。

「嫌じゃない!それにはいつでも綺麗だ」
「じゃあお家に帰ったらキスしてくれる?」
「する!……キス以上も……していいか?ほらあいつらもいないし……今日くらいはさ」

言い訳っぽいか?考えてさらに口を開こうとした。
すると彼の愛妻は満面の笑みを浮かべた。

「そろそろ三人目欲しいなって思うの……どうかな?」

言って頬を染める。
その言葉を聞いた瞬間、彼女の手を握りしめ改札口に向けて歩きだした。

Two

人影疎らな車内で少女は流れ行く景色を興味深そうに眺めていた。

「和花、キョロキョロすんな」
「えー、だって楽しい」

このキョロキョロ星人!圭のいじわる!!
大きな瞳で見つめ合う二人。圭は妹から目を逸らしてため息をついた。

「和花のお子様」
「圭の方がお子様」

睨み合って、ふんっとそっぽをむく。
しかし両者共に繋がれた手を離す気配はない。同じ車両に乗り合わせた女子高生達が小さな声で「写メりたい!!」と騒ぐのも二人には聞こえていなかった。
そして電車に揺られ、たどり着いた都会。
何かに急かされる様に足早に目前を通過する人ごみ。
和花はぽっかり口を開け、傍らの圭に話しかけた。

「けぃー人がいっぱぁい」
「……その前に言うことがあるよな?」

西武新宿駅。
前半二文字はいいとして後半が違う。
わざわざ両親が乗り換えの必要ない電車に乗せてくれたのに、和花の絶対こっち!と所沢駅で叫んだせいでこうなった。物事を確信している時の妹は手に負えない。
圭は怒りが沸き上がりそうになるのを堪え、呑気にほよほよしている妹の手をひいた。

「とりあえず叔父さんに電話して、どうやったら池袋行けるか聞くよ」
「はぁーい、ごめんね」

ひょこんと首を傾げる。肩まで伸ばしたくせっ毛が揺れた。
そして和花も幽くんとお話するぅと駄々をこねる妹にチョップして、通話ボタンを押した。

Three

新宿の街は今も昔も変わるとこなく、喧騒ざわめき怒号嬌声、混ざり合って愛を囁く。
俺はこの街が好きだ。
人が好きだ。
愛してる!
それは「あなたいい加減自称二十一とか悲しくないの?」「そういう波江もスリット入りミニスカートって年でもないよね」なんて皮肉の応酬が行われても変わらなかった。
恒久不変。
俺という存在は世界から祝福されているのかもしれない。
心地好く不快な空気が満ちた街をコートを翻し歩いた。
その時だ、

「おじちゃん」

斜め下から聞き捨てならない声がする。
柔らかそうな髪のワンピース少女と黒髪の少年が手を繋いで並んでいた。

「なんでこんな怪しそうなおじさんに聞くんだよ」
「えー?」

少女が首をかしげる。薔薇色の頬がぷにっと。
……可愛いな。

!?

自分の思考に背筋が寒くなった。
俺には子供好きなんてほのぼの要素はないし、ましてやロリコンじゃない。
ロリコンじゃない!!
内心の混乱をおさめて失礼な子供を眺めた。次いで気づく。
シズちゃんの子供?
以前取り寄せた写真で見た二人に間違いないと俺の明晰な頭脳が言っていた。
ふぅん、シズちゃんの子供。
へぇ偶然って恐ろしいね。
彼等の子供は両親と同じく俺の意表をつくのが好きみたいだ。
そういうのやめて欲しいよね。
自然と口角が上がりそうになるのを堪えた。

「おじちゃーん」
「ねぇ君、俺のことをおじちゃんって呼ぶのやめてくれるかな。俺は臨也。臨也お兄ちゃんって呼んでもいいよ」

すると少年は不審者を見る目で、少女は真夏のお花畑みたいに笑った。

「だってパパと同じくらいでしょ?お兄ちゃんはねー、もっと若いお兄ちゃんに呼ぶんだよ?」

ぐさり。
少女の放つ言葉の刃で思いのほか傷ついた。
しかし次いだ言葉に、

「だからね、和花ねー、臨也くんって呼んであげる」

ほわんとした。

……ほわん?

この子は危険だ!
鳴り響く警笛にしたがい、二人を追い払うことにした。
色々と仕掛けてシズちゃんにハンカチを噛ませてやりたいが、今回は緊急事態だ。
求めに応じてJRの乗り場を教えてやった。

「臨也くんありがとう!」

ほよよん。
お花の笑顔と共に。
少女と少年は人込みに消えた。

「臨也くん……臨也くんねぇ」

確か今八歳だったかな。十年後には十八歳。その時俺の年齢は……。
計算しながら、「いける」と呟いた。
悔しがるシズちゃんを想像してほくそ笑んだ。

Four

羽島幽平。
デビューから十年以上経ち俳優としての名声と立場は既に確固たるものがある。そんな彼には目に入れても痛くないほど可愛がっている姪がいた。
それは業界でも有名で、数回テレビ番組の企画が立ち上がったこともある。しかし羽島サイドの固辞により実現されたことはない。
羽島幽平───平和島幽は自宅の玄関でくだんの少女と向かい合っていた。

「無事に着いたからいいけど……どうして新宿に行ったの?」
「すりすり」

和花は叔父の言葉を聞いていなかった。
池袋駅で合流したマネージャー(駅まで改めて迎えに来てもらった)に連れられて、表情には一片も出さぬまま心配していた幽に迎えられた。
ここは叔父としてビシっと叱らなくては。しかし顔を合わせた途端抱き着いてスリスリしてきた姪。
兄が同席していたら言われただろう「口元が笑ってるぞ」と。
抱き上げて問いかけた。

「和花、怪我はない?」
「うん、幽くん好き!」
「俺も。変な人には話し掛けられなかった?」
「かけられたよ」

不穏な言葉をほよよんと、のんきに笑う。
一拍の間。
錆び付いた人形のように首を捻り、呆れた表情の甥に問い掛けた。

「大丈夫だった?」
「一応」
「そう、圭えらかったね。」

和花を抱き上げたまましゃがみ込み、頭を撫でた。

「ずるい!和花もぉ」
「うん」

足をバタつかせる姪を宥める。
次いでご満悦の彼女を抱っこしたままリビングに向かった。

「姉さん……伯母さんがあと一時間くらいで着くって」
「亮平くんも!?」
「……息子も連れていくって言ってたね」

少しだけ不機嫌に。
しかしそれは圭の比ではない。

「あいつも来るの?」
「圭、亮平くんをあいつって言ったらだめ!和花たちの従兄弟のお兄ちゃんで和花の将来のお婿さんなんだから!」
「はぁ!?あいつをあいつって言って何が悪いんだよ!」
「……和花、圭。ケーキ食べる?」

二人は一度顔を見合わせて、そっぽを向きながら声を合わせて言う。

「「食べる」」

幽は和花を抱き上げたまま、圭と手を繋ぎリビングに向けて歩きだした。

和花のにっき

そして幽くんのおうちでケーキを食べました。
幽くんにあーんしました。べちゃってなったけど幽くんはわらっていました。
幽くんにもあーんしてもらいました。そしたら圭もあーんって言ったのでしてあげました。鼻につけたらおこられました。
ゲームをしました。
圭がとてもつよかったです。
あとから亮平くんがきました。
亮平くんはパパのおねーさんのむすこさんです。
亮平くんはかっこいいので和花が大きくなったらけっこんします。
でもママにいったらパパにはいったらだめだよっていわれました。パパが泣いちゃうんだって。だからないしょです。
そしておうちにかえりました。
幽くんがまたおいでといっていました。幽くん大すき。
えきではパパとママが待っていました。
和花はいもうとがほしいのでママに言ったら、パパがてれました。
和花のパパはかっこいいけどたまにへんです。
よ人でお家にかえって、パパとお帰りのぎゅっぎゅーママとちゅっちゅーしました。
そしてママとお風呂に入って、みんなでお布団をしいてねました。
またあそびに行きたいな。

平和島和花