変な人に絡まれました。
「んなこと言われても、わたしはあなた方みたいにバカバカ飲めませんよ」
「うるせー! 上司命令が聞けないってのかよ」
「……いつ白将軍が上司……?」
「ああん? おめえが勝手に羽林軍の服来て歩いてるの見逃してやってるだろうが」
「う、そりゃそうですけど……」
「無理に飲めとは言わんから、取りあえず来い!」
「はぁ、それならまあ」
渋々拉致られ、羽林軍名物「意味不明に人がバタバタ倒れて正気を失う飲み会」に参加を余儀なくされるのだった。
そこまでは良い。
服が酒臭い。
前言撤回、ちっとも良くない。
……こんなことになるとわかってたら走って逃げたのに。
「ですから彼女は身が軽過ぎると言うか……いえ身持ちは固いようなのですが自由奔放で、家で待っていろと言えば窓から抜け出し、周辺のおばちゃ……おばさま達にちやほやされ、その上楽しそうにどこかの男と食事を奢られる始末」
「は、はあ大変ですね」
「大変です」
どきっぱりと言い切った目は座りまくった上、連日の酒で淀んでいた。それはもう、白将軍が連れて来た男装のわたしをわたしと認識出来ないほど酷く。
助けを求めようと視線を彷徨わせれば、ひらひらーと三メートル先で手を振る藍将軍。
「藍将軍が呼んでおられるようなので自分はこれで!」
「待ちなさい」
手を掴まれた。
そう思った次の瞬間には彼の目前で正座をしていた─静蘭恐るべし。
「話は終わっていません。 ですからは私という完璧で顔も良い恋人がありながら自由すぎるというか、本当に結婚するつもりがあるのかと言いたいわけです」
「はぁ!? 結婚!!??」
「悪いですか?」
「悪くはないですけど……その話ってちゃんと彼女としたんですか?」
聞いてない!今度はこちらが胡乱な瞳で見つめてやった。
それに果たして泥酔したからと言って大切な彼女の変装を見抜けない様な男と結婚すべきか?答えは『否』だ。既に脳内では家出計画が練られている。
しかし静蘭は急に真面目な顔をして、わたしの肩を掴むと、
「していません、というか無理です」
「何情けない事真顔で行ってるんですか」
一瞬ドキっとした分返せ。
「断られた貴方責任とってくれるんですか」
「なんで断られるって決めつけるんですか」
「だって、彼女は私のことを好きだとは言っても愛してるとは言わないんですよ」
「はぁ? 思ってれば別に言う必要ないでしょ」
「あります」
真摯な瞳がやけに間近に感じられた─というか、近過ぎ!近寄り過ぎです静蘭さん。だけど次いで言われた言葉に固まる。
「を愛してるんです。 何度抱きしめても、くちづけても足りないほど。 毎日触れていたい、抱きたい、愛してる」
「静蘭ー!!??」
強い力で抱きしめられた。
普段なら壊れ物のように優しく抱きしめるのに。
ナニコレ。
全身が心臓になってしまったみたいだ。
嬉しい。
でも困る。
だって、
「君達こんなところで何をやってるんだい?」
「藍将軍……ぐぇっ、たすけて」
「仕方ないな、ほら静蘭」
「イヤです」
腰に回された腕が、おもちゃを取られそうになった子供のようにイヤイヤする。
なんだこいついつからこんなに可愛く!?って違う。
「静蘭ー!! さてはあんたわかってるでしょ? 離しなさい」
「絶対に嫌だ」
「じゃあどうすれば殿を離すんだい?」
少し間があり、ぽつりと彼は呟いた。
「からくちづけてくれたら離します」
「で、できるかぁー!!??」
こんな公衆の面前で、死ねと?
思ったが耳元で囁かれた言葉にうっかりほだされた。
「……私のことが嫌いじゃなければ、してください。 貴女が好きなんです。 愛してる。 せめて態度で示して欲しい」
その声音があまりに切なげで。
高鳴る鼓動に手を当て、覚悟した。
「わ、わかった。 恥ずかしいから目を閉じて」
頬に両手を添えると、長いまつげがゆっくりと閉じる。くちびるが触れ合う一ミリ手前で少し躊躇して。
「んっ」
思わず吐息がもれた。
頬に熱が集まる。恥ずかしい。だけど気がつくと口内に押し入って、絡まる舌先。それはなんというか……ちょっと気持ちよかったので押しのけるのを止めてしまった。
「んっ……っ」
そんなわけで、周囲の注目を一心に集めてる事に気がつかなかったのはわたしのせいじゃない。
翌日。
「……なんですかこれ」
「羽林軍精鋭全員からの果たし状だよ。 ほら君が衆道だと思われたら迷惑だろ? ちゃんと殿の性別も静蘭の一緒に住んでる恋人だって話も伝えておいたから」
彼の輝くような笑顔が眩しかった。
恋は盲目……とは言うけれど
そこは羽林軍、寂しい独身男のたまり場。
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ごめんなさい(土下座)
静蘭が違う人みたいになっています。さらには書いた後にリクは切甘だったんだ……と思い出しました。切甘っていうかギャグ甘?本当申し訳ない!
一人でも楽しんでいただける方がいたらいいなと思いつつ。