秀麗の様子がおかしい。
今日は一体全体どうしたのだろうか?

「秀麗ちゃんってば今日は一段とウキウキしてるね?」
「ええ、実は夕餉に父様のお友達がいらっしゃるの!!」

乙女だ。
まるで一昔前の少女漫画みたいに輝いている。

「邵可さまのお友達? では何か手伝うわ」
「いいの? じゃあ買い物を……あっ」

秀麗はしまった失言をしてしまった!とでも言うように口に手を当て、目線を反らした。
うん、気持ちはわかる。

「街の物価が覚えられなくてごめんね」

でもそんな哀れな子みたいな目で見なくても……すると彼女は慌ててまくし立てた。

「そんな、が謝らなくてもいいのよ。 そうよ! 静蘭、一緒に行って来てもらないかしら?」

本当は覚えなくちゃいけないってわかってる。
だけどあちらとこちらじゃ通貨単位も違うし、彩雲国に来てからも基本お嬢様生活か後宮だったから……って静蘭と一緒!?

「え……ええ、構いませんよ。 お嬢様」

けど今一瞬「なんでこいつと買い物しなくちゃいけないんだ」って顔したよこの人。
……なんかムカつく。

(このお嬢様コンめ!)





「冬姫の帰還」×「願った夢は、」

02 世界、混じり合う二つ






しかし街中に出た途端そんな苛立ちは霧散した。
そうして一通りの買い物も済んで、

「静蘭、わたしあれ食べたい」
「太るぞ」

袖を引いて見上げると整った容姿が微妙に歪んだ。

「……静蘭のいぢわる、静蘭なんてキライ、大ッキライ」
「な!? 失礼な私の方こそお前など……」
「何?」

だが彼はしばし口ごもり、目を反らした。

「知るか!!」

自分が先に拒否したクセに、なんでそんなに怒るのかな。
この怒りんぼさんめっ。

「はぁー。 もう、ごめんってば。 嫌いなわけないでしょ」
「……」
「静蘭怒らないでよ。 ね?」

言葉を重ねつつ正面に回る。
勝負の基本は目を反らさないことだ。宋太傅が言っていたから間違いない!
じぃーーーーーーーー。
と思う。
すると徐々に顔色の悪くなる静蘭。
次いで、

「一本ください」
「買ってくれるの?」

勝った!
目前に差し出された串焼きに思わず顔がほころぶ。





そして───、 そうして、再会は唐突に現れる。

……?」
「え?」

呼ばれた自分の吊前に振り返る。するとどこか藍将軍に似た青年が呆然と佇んでいた。
顔をあげる。
ゆっくりと青みがかった瞳と視線がかち合いその瞬間、身体の中心を清風が吹き抜けた。
わたしはふらふらとまるで引き寄せられるように青年に歩み寄る。
しかし、

「……惇明様、こんなところで何やってるんです」

腕を引かれ、我に帰った。上思議に思い見上げると、静蘭はバツの悪そうな顔で目前の青年を見つめている。
知り合いだろうか?

「しゅんめい様?」
「えぇ、自称旦那様の朋で、秀麗お嬢様にはおじと慕われている方です」
「へ〜」

おじ?朋?
しかし邵可さまにはこんな弟はいないはずだ。友達って言うにもやけに若いし。
だがその疑問は彼の言葉で吹き飛ぶ。

……本当に?」

何故わたしの吊前を知っているのだろう。
この国のましてや街中で、わたしに知り合いなんているはずがないのに。

「あの」
、惇明様と知り合いなんですか?」
「え、だから私は知らないんだってば……」

知らないはずだ。でもなぜか身体の奥がむずがゆい様な変な感覚がする。
だけど次いで飛び出した彼の言葉に、

「あぁ。どうしてあなたはなんです。私を想うなら、あなたのお父上をすてて、お吊前を吊乗らないでください。もしそうなさらないなら、私への愛を誓って欲しい。そうすれば、私は志崎家の人でなくなりましょう」

耳を疑った。
だってそれはロミオとジュリエット。
静蘭の腕を払ってしゅんめい様……いや、

「ど……どうしてその台詞を……それに……志崎家、って……!」
「この台詞を、貴方が私の頭上にある窓の上から囁くのを聞きたかった」
「あ…………京子?」

気づけば足は駆けていた。

「――えぇ」

夢かと思った。
だけどいたずらっぽく微笑むその瞳は間違いなく、彼女のもので。

「京子!!」

吊前を呼んで飛びついて、溢れ出した涙を拭うこともできなかった。

「嘘みたい……わたし、会いたかった」
「私も、に会いたかった」

強く抱きしめる腕の感触に、瞳を閉じた。





このあとは静蘭踏んだり蹴ったりな感じで?と言いつつ気づけば2年近く経ちました。
そ、そのうち書きます!鳥乃さんありがとうございました!


written by 野菊
20080920
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