冷血Girl
鏡夜と庶民デパート
鏡夜は霞みがかかった意識が少しずつ浮上するのを感じた。
気がつくと目前には、芯の強さを表すように結い上げられた髪と真っ黒な瞳。容姿は最低限整ってはいるものの、美人というほどではない───そういった顔、つまり彼女は。
「ここはどこだ?」
「……デパート」
問いかけると、長いまつげが数度はためいた。
そして女にしては低めの声が答える。
「、お前がなぜここにいる」
「鏡夜先輩こそなんでこんな場所にいるんです?」
途端に不機嫌に歪んだ眉根。
「というか起きたならどいてもらえます? 重いんで」
ここにきてようやく彼女に寄りかかったまま眠っていたことに気がついた。そそくさと起き上がり、周囲を見渡すとそこは庶民の群れで。
「状況を説明してもらおうか」
するとは呆れ顔でため息をつき、
「買い物に来たんです。 で、エレベーターを登ったらあなたがいました。 ……なんでこんなとこで寝てるんですか?」
明後日を向いた。
思案の後、沸き上がるように思い出した今朝の出来事。
それは笑顔で物産展へと誘う環(バカ)とその仲間達。
「……そうか、だいたいの状況はわかった」
仕方なく現在地を確認し、携帯電話がないこと。さらには財布も不所持であることに気がつく。
鏡夜は振り向き、
「、所持金はいくらだ?」
「三倍返しならいいですよ」
さわやかに利子をつけた彼女は目を細めて微笑む。
「わかった、あとで環に返させる」
「了解っ」
彼はそれに一瞬目を奪われ、すぐ逸らした。しかし食事に向かう途中、
「あれ? ……と鏡夜先輩!?」
顔面蒼白のハルヒと出会う。
「まさかデート!?」「あー、ないない」と驚くハルヒに笑顔で切って捨てた。
彼女はそんなことより、と前置きをして手を差し出す。
「もし暇ならハルヒも一緒にご飯食べよ」
春の木漏れ日の笑顔に、得も言われぬ感情が鏡夜の胸を過り、消えた。
今日デパートで鳳鏡夜に会った。
「鏡夜先輩ってなんでエゴイストのフリなんてしてるんだろう、自分にはわからないな。 はどう思う?」
「さあ……? したいからじゃない」
デパートの帰り道、くりくりした瞳をさらに大きく開いてハルヒは首を傾げる。だから私は思ったままに言葉を発した。
すると彼女は不満そうに口を尖らす。
「さっきからニヤニヤしてる……」
「だってハルヒがあまりにも可愛いから」
「はぁ……いつもそうやってごまかす」
確かに半分は嘘だけど?でもハルヒが可愛いのはホントだし。
なんて考えながら、いつもの十字路でハルヒと別れる。
そして十歩ほど歩いて立ち止まり、
「なんでこう、私の周りには好青年が多いのかね」
再び歩き出した。
2008.10.18 This fanfiction is written by Nogiku.