冷血Girl

個人面談の日

「ようこそ、鳳鏡夜の父です」
「お招きいただきありがとうございます。 です」

目前にはダンディーなおじさま。後ろには高級ソファー。
どんな状況かって?
───説明しよう。
ここは鳳総合病院。この人は鏡夜のお父さん。
平たく言えば呼び出されたってことだ。……めんどくさ
しかし来てしまったものは仕方ない。彼の挨拶に対し、丁寧に頭を下げた。

「どうぞおかけください」
「失礼します」

合図と共に革張りのソファーに腰掛ける。そして正面を見据えた。
だが彼は口を開かない。
私も開かない。
間……。
沈黙はノックと珈琲の香りによって断ち切られた。
優美な仕草でカップを運ぶ秘書の女性。
さすが鳳グループ。受付でも思ったけれど、美人ぞろいだ。しかも大和撫子タイプ。鏡夜父の趣味に違いない。

「うちの鏡夜とお付き合いされているというのは本当ですか?」
「ええ、本当です」

彼は、秘書が出て行くのを見計らって口を開いた。
対する私は笑みは崩さない。
というか興信所の人間をあれだけうろちょろさせといて『されてる』も『ない』もないと思うが。
嫌みか?

「我が鳳家は先の公爵家に連なる由緒正しい家柄でしてね」
「存じております」

やっぱり嫌みだったらしい。
要約すると、『うちの息子に変な虫がつくと困るんじゃゴラー!』ってところだろう。金持ち、というか家柄って大変だねぇ。しかもその為にお金持ち学校に入れているだろうに、学年に一人程度しかいない一般庶民に当たるなんて彼も運がない。

さんのお父上の勤め先、K社の社長とは個人的にお付き合いがありましてね」
「そうですか」

平然と相づちを打つ。
すると彼の表情は不機嫌に曇って、

「うちの鏡夜との関係を解消していただけなければ……わかりますね?」

脅された。
吃驚するほど陳腐だ。しかも文言がまったく練られていないところに、私を軽く見ている事実が透けて見える。
それって、

「わかりますわ。 鳳さんがこんなことでご自分の権力を振り回す、小さい人間ではないって」

ムカつくよね。

「付け加えさせていただきますなら鳳さんは息子に結婚までまったく全然女性とのお付き合いを経験させないおつもりですか? そうして大人になることが正しいと? 持論を展開させていただくならばそれってまったくナンセンスです。 確かに鏡夜さんはとても頭が良いですね。 でも経験だけは、生来の才能で補えません。 感受性の強い今に吸収しなくては生涯得られぬものもありましょう。 失礼を承知で申し上げるなら、女性経験ゼロの男なんて夜の女のいいカモですよ。 彼の場合自覚と自信があるからかえって危ないんです。 しかもお仕事上、そういった場所に行かないなんて有り得ないでしょう? ですから鏡夜さんは今私と付き合って経験を積んだ方が良いのです」

ひと息で言い切る。
すると彼の表情が動いた。
一分ほどか。マジマジと顔を見つめられた。
二分経った。
まだ見てる。
セクハラか?
次いで、

「はははははははは!!」

大声で笑った。
目を丸くしていると、

「どこの馬の骨かと思いきや、大したお嬢さんだ」
「はぁ……ありがとうございます」

褒められてるんだが、貶されてるんだか。
その後は互いににこやかに冷戦を繰り広げつつ、学園での鏡夜の様子、ホスト部のこと、私の生い立ち、将来の方向性などを話して終わった。

「それでは失礼致します」
「また来たまえ。 しかし、鏡夜とのことを完全に許したわけではない」

顔を上げると鋭い視線と勝ち合った。

「鏡夜の卒業までだ。 後のことはその時決める」
























卒業ね、ってあと一年もないんですけど。

!!」

しかし思案は建物から出た瞬間、響いた声にかき消される。
驚きながら振り返ると、そこに鏡夜がいた。

「何?」
「何、じゃないだろう。 父からどんなことを言われたのか知らないが、俺はお前と別れるつもりはないからな!」











環君が以前鏡夜を「熱いヤツ」って言ってたけど、なるほど。
私は頬に朱が差さないよう、気合いを入れた。

「卒業」
「どうした?」
「卒業まではいいらしいよ」

そらっとぼけて告げる。
すると鏡夜はがっくりと肩を落とし、次の瞬間冷静な表情で覗き込んだ。

「どうやって丸め込んだ?」
「誠意が伝わったとか、鳳さんが私を気に入ったとか思えないわけ?」

人をペテン師みたいに言いやがって。失礼な男だ。






ま、いいや。
疲れたし、家に帰ろう。

「鏡夜、車呼んで」
「うちの車をタクシー扱いするな」

なんて口では言っても、手は携帯に伸びている。

「鏡夜」
「ああ、すぐに来てくれ……なんだ?」

振り向く。
だから私はつま先立ちをして、肩に手をかけた。

「……っ」

鏡夜が仰け反る。
でもその愕然としながらもどこか嬉しそうな表情が可愛かったので、「ふふ」っと笑い、その手を握りしめた。






以下反転であとがき
何故か「付き合い始めました設定」一発目がこれでした。
最後二人がしてたのは路チューです。路上駐車ではなく、路上チュー。
普段の彼女はそんなこと、自分からしません。喜んでください、鏡夜さん(笑)
ということで鈍足ながらも冷血Gril続きます。