冷血Girl

モリの秘密、彼女の好み


「平和ね……」

秋雨。
モリ先輩の思考当てクイズという意味不明の企画に皆が飽きて数日。
桜蘭高校ホスト部には平穏な空気が流れていた。

「浮ついた空間においてモリ先輩がああして漬け物石のようにどっしり構えてくれていると、世の中の近郊が保たれている気がしますねぇ……」
「そうさのう〜言われてみれば崇の家からもらう漬け物はウマイですからなあ〜」
「そういう意味だったの?」
「違うけど、まあいいよ」

「どうでも」と付け足して、ハルヒが日本茶をすすった。
そしてハルヒ、ハニー先輩三人でうすら呆けた会話を繰り返す。たまにはこういうのんびりした時間も良い。
だけどここはホスト部、やかましい目立ちたがり屋の巣窟。
そろそろ何かしらの事件が起きるんだろうな、どうやって逃げようかなと考えながらコーヒーを飲む。
巻き起こる騒動を止めるつもりはない。
だって面倒くさいし眺めてる分には面白い。
しかし今回は意外な場所から火の手が上がった。
窓際に座っているモリ先輩にお客さんが心配そうに近づく「モリ君あの……窓際は冷えますわ」聞こえた瞬間立ち上がり、新しいコーヒーを入れ直した。
次いで漂う変な雰囲気に少し首を傾げる。

「先輩、お茶が入りました」
「ありがとう、優しいんだな」

ぞわぞわぞわ。
背中で芋虫大行進。
これが環先輩なら「飲むんですか?飲まないんなら私飲みますけど」とあしらって終わりだ。だが相手はモリ先輩。
さらに私の額に手を当てて、

、顔が赤いな……熱でもあるのか?」
「……なっ!?」

こ、これが羞恥プレイの強要ってやつか……モリ先輩、恐ろしい男。

「「「が赤くなった!?」」」
さんが!?」

バカたちと同級生の声が重なる。
するとモリ先輩はハルヒまで口説きだした。

「モリ先輩へんなスイッチ入った!!」
「あ、雨の湿気で回線イカれたんだよ!実はロボだから」
「マシーンだから!」

三バカがまたも騒ぎ、

「俺はロボじゃないぞ?しょうのない奴らめ」

さわやかに微笑んだ。
なんだこの人。
結果から述べると彼は眠くなるとクサくなるらしい。ハニー先輩が言っていた。
意味がわからない。
変人揃いのホスト部で、モリ先輩だけはまともだと信じていたのに。
内心で軽い落胆をしつつ、コーヒーを二杯入れ直した。

「ところで先ほどの反応。もしやはモリ先輩のことが!?」
「「ひゅーひゅー、でもには百年早いって感じー」」
「すいません、私恋愛対象は三十路以上なので」

凍った空気を無視して、ハルヒに手渡す。

「……平和ね」
「え、ああうん」

黒い液体を一口飲み込んで。
芳醇な香りと、何故か魔王様化した鳳先輩にシメられている人たちの悲鳴を背に、目を閉じた。
そんな秋の一日。