冷血Girl

体育祭の顛末

どうしてこうなった。
桜蘭学園第一運動場、グラウンドを臨む観客席の最前列に立ち、意識を飛ばしていた。
女子達のキラキラした期待の眼差しに死にたくなる。
元凶たる眼鏡野郎先輩はグラウンドに片膝をつき、右手を伸ばした。

「俺と付き合ってほしい」




どうしてそうなった。

事はアメフト部が、第三音楽室に乗り込んできたことに始まる。
環先輩VS鳳先輩という謎の構図で開催が決定した体育祭。嫌々ながらも参加した私は無事、パン食し対決(パン美味しかったです)を終え、悠々と白組後方で休憩していた。
白組真っ黒リーダー会議にも参加(連れて行かれた)し、競技にも出た。あとは観戦モードで問題あるまい。

、寛ぎ過ぎ」
「は?」

だからあきれ顔で近づいてきた馨にメンチを切った。

「うわっ女子がその顔はなくない?」
「そう?」

額に手を当ててため息をついた。しかも隣に座ってくる。

と鏡夜先輩の作戦、見事に決まってるね。さすが魔王様とグロ魔女様!」

おい、グロ魔女ってなんだ。

「環先輩が何もしないで負けるとも思えないけどね」

これには相づちを打つ。
それにしても、と前置きをして馨は話題を変えた。

「これここだけの話にしてよね」
「じゃあ言わなければいいじゃない」

と牽制しつつ、聞き耳を立てている人間がないか周りをチェックする。

のそういうところいいよね!」
「は?」

冷たい目で見たのに無視された。

「鏡夜先輩は、公式の場ではどうしても須王の顔を立てないといけない。それはそれで有益なことなんだろうけど、なんだかなって思って」
「それ気づいてなかったの?」
は気づいてたの」

二人の様子を見ていればなんとなくわかるでしょう?
答えると、きょとんとされた。
その後爆笑、「さすが!」とか言われた。褒められた気がしない。
あと今回のイベントはその当たり狙って企画したんじゃないの? 環先輩は天然すぎて何考えてるのか詳細はわからないけど。

なら殿と同じくらい、鏡夜先輩の理解者になれるかもね」

と、キラキラしい笑顔で立ち去った。
ペットボトルの蓋を開け、紅茶を一口飲む。
鳳先輩の理解者?
……興味ないわ。

その後環先輩の応援合戦により赤組の戦意が復活し、白熱のバトルが繰り広げられた。
そうして、決着の時。
リレーのアンカーは赤組、環先輩。白組、鳳先輩。
眩しいほど青春していた。
私まで少し熱くなってしまった。
勝者は鳳先輩。
白組の勝ちだ! こみ上げてきた喜びに、不思議な気分がした。
それはいい。
青春のお裾分けをもらったということで、思い出のアルバムにしまえる。
だが、

「馨!」

汗を拭うのもそこそこに、彼は後輩の名前を呼んだ。

「おっけー!」

馨はニヤニヤしながら、私を観客席の最前列まで押し出す。

「え、何?」

抗議しかけた瞬間、鳳先輩の声が会場に響き渡った。

!」
「……はい?」

何このロミジュリ的恥ずかしい構図。

「俺と付き合って欲しい」

どこへ?
ボケたい。ハルヒの鈍さが欲しい。
でも周囲の女生徒の瞳がキラキラと輝きだし、「きゃープロポーズですわ!」とか聞いてしまっては。
頭打ったんですか? 保健室ですね! とは言えない。あとこれはプロポーズではない。
困って鳳先輩を見下ろすと、自信満々にニヤリと微笑まれた。



やられた。
私にはこの空気は壊せない。
……ああ。
……うーん。
仕方ない。






「はい、私で良ければ」

その瞬間、会場は割れんばかりの歓声で包まれた。




っていうか、鳳先輩って私に気があったの?
あとから馨に聞いたら、「って意外と自分の事には鈍いよね」ってニヤつかれたので、デコピンをしてやった。
2013.05.06 This fanfiction is written by Nogiku.