冷血Girl

嵐の前の

南校舎の最上階。北側廊下つきあたり。
扉を開けるとそこには、

「げっ」
「ユキ誤解だああ!!」

ふんどし一丁の金髪男がいた。
ので、速攻で扉を閉じる。
出てこられないように背中で扉を押さえると、ドンドンパンパン叩く愉快な音がして、最終的にはシクシク泣いている声が聞こえた。
仕方なく扉を開くと、そこには泣き崩れる環先輩がいる。
冷たい一瞥を差し上げるとガーンという効果音付きで、窓枠近くまで離れ、床に水たまりを作りながら泣き伏した。
肩を竦めて、元凶っぽい人に問いかける。

「なんですかこれ?」
「……敬語」
「なにコレ?」

言い直すと、彼は眼鏡をクイっとあげるお決まりのポーズの後、先日の体育祭の罰ゲームだと答えた。
……そういえばそんなことも言ってたかも。興味なかった上、衝撃的オチのせいで忘れてたワ。

「ふーんそれでこの状況?」
「まあな」

キラキラしい毒のある笑顔に、微笑みを返した。

「「おお! ユキが笑った!!」」
「……カメラ……」

トテトテとカメラを探して彷徨うハルヒに、環先輩が気を引こうと話しかけている。でもカメラは持っていないらしい。
っていうかもう表情は変わってる。

「人の笑顔をレアアイテム扱いしないでくれる?」
「今の、誰か写真撮っていたものはいるか?」
「おい」

鏡夜につっこみをいれると、鼻で笑われた。
まあいいか。
そんなことより準備始めよう。たしか今日はスコットランド風衣装ってことなので、飲み物は紅茶。超度良さそうな茶葉あったかなと脳内で検索する。

「手伝おうか?」
「じゃあカップの準備よろしく」

背が高いので、高い所のものを取りたいときにはぴったりだ。頭の中で脚立扱いしていると、黒い笑顔で睨まれた。

「何か?」

笑顔を返すと、黙って明後日の方向を向いた。

「それにしても、環先輩元気そうね」
「……ん、まあな」
「二年の研修旅行フランスなんでしょ」

鏡夜の横顔を見つめると、複雑そうな表情でため息をついた。

「行き先が希望集計制と聞いてから覚悟はしていたようだがな」
「覚悟、ね」

覚悟、覚悟、覚悟かぁ。
環先輩のことだから、ホントは研修旅行行きたかったんだろうな。
でも私がここで何かを言ったところで変わらない。

「……それで私の彼氏さんはどんなお土産を買ってきてくれるつもりなのかしら?」
「かれ、っ」

乙女のように赤くなった鏡夜。
しかしここが部室だとすぐに気づき、咳払いで誤魔化す。

「何がいい?」
「そうね……鏡夜が私にプレゼントしたいと思ったもの、かな? 楽しみにしてるね」

手を伸ばし、彼のくちびるを人差し指で押した。
さてカップを温めるお湯の準備、と思って振り返ると、双子が揃ってニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「「悪女はっけーん!」」

見事なハモりを見せ逃げていく彼ら。




誰が悪女だ。


あとで隙をついてお盆の角で殴ろう。
今日も桜蘭高校ホスト部は平和だ。
……それが例え嵐の前の静けさでも、ね。