ある日の主従20題


説明
別名戩華さまと一緒!先王陛下とのある一幕です。本編との兼ね合いはあまり考えてないので、実際にはあったかもしれないし、なかったかもしれないお話。短編集(一話が短いor会話のみ)お題:TOY
話の傾向:君ら、仲良過ぎじゃないですかね?といった感じです。

更新


*   *   *

起きる前の一騒動
「主上ー? 朝ですよ、起きてくださいませ」

このところ戩華さまは寝起きが悪い。
真顔で年ですか?と聞いたら殴られた。バイオレンスな主だ。仕方なしに寝台に歩み寄り、上掛けに手を伸ばすと、

「きゃっ」
「もう朝か……」

あなたはどこのサラリーマンですか?と問いかけたくなる様な言葉が聞こえた。しかし耳元で囁かれる腰砕けの美声は……なんていうか、ホント勘弁してください。
手を引かれ、のしかかった形ながら必死に睨む。

「主上、離してください」
「名前で呼べ」
「もう、戩華さま怒りますよ!」

すると彼は満足気な微笑を浮かべ、手を離した。
そして一日が始まる。

2009.07.17


*   *   *

本日の予定
「陛下? ……えーと戩華さま」
「なんだ?」
「いやそれ、わたしが聞きたいのですが」

今日は何をする予定なのですかと問いかけたら、手を握られた。しかもじっと見つめて逸らさない。整った容貌、強い視線。年を感じさせない引き締まった身体。
───どうしよう、ドキドキしてきた。

「予定は」
「……予定は……?」

瞳に吸い込まれる。
思った瞬間、

「お前の剣の稽古だ」
「えー!?」

緊張状態は脆くも崩れ去るのだった。
今日も変わらず手加減無用の稽古だったことだけ、ここに記す。

2009.07.17


*   *   *

何をしているのかと思ったら
「……止めてください……駄目です……」
「黙れ」

霄大師は、そんな声を聞いた。聞き耳を立ててみれば、涙声まじりの懇願すら混じる。
そんな妖しげな会話を聞き取れば誰だって気になるだろう。しかしここは後宮。聞かなかったことにするのが大人の嗜みというもの。だが彼は数百年を超える年月を超えてすら、大人になりきれていないじじいだったのだ。

「主上! その娘は……」
「霄、どうした?」

目が点になった。
乱れた寝台、はだけた衣装。そこまでは想像通りだが……。

「何をしておられるのですかな?」
「手当だ」

戩華はの足を持ち上げ、擦りむいた膝小僧に薬を塗り付けながら言う。

「痛い!」
「我慢しろ」
「主上が足引っ掛けるから……」
「避けないお前が悪い」

そして彼は振り向くと、

「霄、いつまで見ているんだ?」
「は、はあ。 失礼しますじゃ」

と言って主の寝室に背を向けた。
数メートルほど過ぎて、一国の王が女官の傷の手当をする必要があるのか?(そして考えてみればあの体勢は怪し過ぎやしないか)思い当たるも、全てはあとの祭りである。

2009.07.21


*   *   *

二人の間では慣れっこの
「陛下、あーん」
「……」

ぱくり、口に含み満足気に租借する。
癖のある髪が肩口を流れ、物憂いに片膝を付いた。

「何か用か、霄?」
「い、いえ……いや! ありますぞ、先ほどから一体何を!?」
に食事を口元まで持って来させているだけだが?」
「だけではありません!!」

声を荒げる霄大師。
茶太保はそれに割って入ると、自らの養女に問いかけた。

「いつもこんな雰囲気なのかの?」
「雰囲気……状況のことですか。 はい鴛洵様、主上はいつもこんな感じです」

きょっとんとした表情で首を傾げた愛らしさに、「今のうちに後宮を辞めさせるべきか、いやそれは主上が認めぬだろうし」黙考を始めた。

「宋太傅、鴛洵さまたちは一体何を?」
「放っておけばいいんじゃねえのか」
「そうですか?」
「別にいいだろ」

師匠の言葉に安堵して頷いた。
そして引き寄せた腕に顔を上げる。

「酒を注げ、舞を見せろ、側を離れるな」
「それを一度に行うのは無理です」

言って、彼の杯に酒を注いだ。


王城に月がかかる。
最後の時はゆっくりと過ぎて。

2009.07.24


*   *   *

不機嫌なその理由
しゃらり、しゃらり。
色とりどりの玉が揺れる。彼は不快そうにそれを見つめた。

「……誰が……」
「はい?」

振り返る。
次いでこっくりと首を傾げた愛らしさに、腕を伸ばした。

「……陛下」

柳眉を吊上げるのも構わず、腕の力を強める。

「痛いです、離して」
「断る、と言ったらお前はどうする?」

戩華の指先が彼女の顎を跳ね上げた。
そして真剣な色合いを帯びた瞳がゆっくりと近づく。

「へい……か」

瞳が揺らぎ、くちびるから甘い吐息が漏れた───ように感じた。
だがふたつのくちびるは重ならず、通り過ぎるのみ。
奪われた色とりどりの簪に、はらりと髪が広がる。

「なんだか、怒ってませんか?」
「なぜ俺が怒る必要がある? だがこれは預かっておく」
「人からいただいたものなのですが」

だから、とは言わなかった。
なおも言いつのろうとするくちびるを指で塞ぎ、額にくちびるを落とした。

2009.08.23
簪は贈り物。その後戩華が送り主をどうしたかは……(笑)


*   *   *

お忍びの偵察


*   *   *

周囲に主の素晴らしさを力説する従
「先王陛下の話?」
「ええ、はお側で仕えてたって劉輝から」

ぽかぽかとした日差しが差し込む。
秀麗の覗き込むような好奇心に、思わず考え込んだ。

「陛下はそうね……一言で言うなら完璧? わたしは政治の表舞台に立っていたころは知らないけれど、病床にあってなお頭脳は明晰、その上鬼みたいに強かった」
「うん、うん!」
「……あとは……」

後半はごにょのごにょとごまかされ、秀麗の耳には届かない。しかし傍らで耳を澄ましていた家人には聞こえていた。

『ちょっと抱きつき魔』

仮面の様な笑顔のまま、ピキピキと強ばる。
あの父王が、厳格で息子にも妻にも決して私情を見せなかったあの人が。
抱きつき魔……だと?そんな羨ましい、いや違う!そうではなくて……。
だが衝撃を受けて固まっている間に会話は他へと変遷し、最早聞き返せる雰囲気ではないことに彼は後まで後悔することになる。

2009.08.23


*   *   *

トランプで小休止

「ん?」
「違う、こうだ」

純白のシーツの上を、花札が散る。
後宮の一室。男女が顔を付き合わせ、遊戯に興じていた。

「わかりません。きっと陛下の教え方が悪いんです」
「……どうやら躾が足りなかったようだな」
「うう……ごめんなさい」

押し倒された女は涙目で謝罪し、対して男は整った容貌を楽しげに歪める。

「陛下……」
「なんだ?」
「なんで組み伏せる次にやることが引き寄せて抱っこなんです? 以前から思っていたのですが、貴方はもしかしてわたしをぬいぐるみか何かだと思っていませんか?」
「……ふむ」

抱きしめた体勢のまま、戩華は思案する。
は背筋が粟立つのを感じた。
しかし時遅く、

「つまり自分は女だ、抱けと?」
「そんなこと言ってません!!」

輝きを増した笑顔に、絶望的な気分で突っ伏した。

2010.05.22


*   *   *

くどくどお説教
「何故出来ない?」
「何故……と言われましても」

陛下の目が怖い。
彼は嘆息するなり、わたしの腕を掴み、

「外してみせろ」

ひねって寝台に押し付けた。

「痛たたたたた! 痛い! 陛下痛い!!」
「ヤレ」

涙目になりながらも、習った通りに外そうと試みる。が、

「無理! 無理ですってば無理ー!!」
「ではこのままだな。 精々喘げ」
「このどS!!」

通じない筈の言葉。だが背後で僅かに含み笑いをする気配がした。

事の発端は、なんかよくわからない理由で陛下が説教してきたことにある。隙が多いだの、なんだの。
そんなこと言われても困るし、言われなければいけないほど隙なんてあるはずがない……と思う。抗議すると、飽きれた顔で「証拠を見せてやる」と護身術教室が始まったのだった。

「戩華の馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!」
「俺を呼びつけにするとはいい度胸だな」

甘い声音で辛辣に。
結局霄大師の絶叫に遮られるまで、護身術教室は続いたのだった。

2009.08.29


*   *   *

冷めないうちにどうぞ
ある月夜、王様の寝室。
彼女は困っていた。

「せっかくですけど、お酒はちょっと……」
「下戸か?」
「いいえ、飲めないわけじゃないんですけど……その」

むしろ好きなくらいだ!
室内を満たす芳醇な酒の香りに唾を飲み込んだ。
だが戩華が、「お前も飲むか?」と聞くと複雑そうな表情で断る。

「わたし親しい方とお酒を飲むと酒癖が悪くなるみいなので……」

特に年上の人と一緒だと、なんというかうーん、と言いよどんだ。すると彼は実に楽しげに微笑み、に無理矢理杯を持たせ、注いだ。

「飲め」
「でも……」
「俺の酒が飲めないのか?」

セクハラっぽい……と口の中でもごもごと言いながらも誘惑に負け、一口に飲み干す。
口当たり良い、高級な味がした。

「いける口だな」
「……まあ……」

飲み過ぎてはいけない。
しかしバカスカ継ぎ足され、ましてや目前の男はザル。気がついた時にはかなりの量を飲み切っていた。
ぐったりと寝台につっぷしていると、戩華が夜空を見つめているのに気がつく。
すると、

「なんだ?」

手が勝手に袖を引いていた。だが見つめられると気恥ずかしく、そっぽを向く。

「……なんでもありません」

でも袖から手を離さない。

「言いたい事があるならはっきり言え」

覇王と呼ばれた男がのしかかる様に問いかけた。威圧感、羨望、混ざり合った気持ち。
二度ほど躊躇した後、酒で潤んだ瞳で見つめた。

「陛下……ぎゅってしてくださいませんか?」
「……」

戩華は黙った。
酔った頭はなおも言葉を紡ぐ。

「……ダメですか?」

少しの間があり、次いで伸びた腕に引かれた。
そして翌朝、

「きゃぁーーーー!!?? ごめんなさい!!」

一晩中腕の中で、すりすりうりうり。
何もなかったのは彼だったからで、ありえない行為の数々に顔面を蒼白に染めた。そしてもう二度と人と一緒にお酒は飲まないと固く誓う。
しかしながら戩華はに一つの約束をさせたのみで、これと言って怒りはしなかった。

「男と二人で酒を飲まない事」

俺は別、という項目があったとかなかったとか。

2009.09.19
冷めないうちにどうぞ=据え膳的な意味で(笑)戩華は食してないけど。。


*   *   *

昔話
呼ぶ声が聞こえた。
それは夢幻から流れる。
懐かしい、愛おしい。
人形の様に端正な顔を少しだけ綻ばせて、君が笑った。

「戩華」

言葉は安らぎを与えた。
しかし永遠に去ってしまう。
純白の雪が降っていた。白魚の手は真っ赤な冬の花をもてあそぶ。
悲しげに微笑んだ。

「ごめんなさい」

次いで背を向けた。
気がつけば誰とも知らぬ男に手を引かれて、

「───待て!!」



目を開けば寝台に寝転んで、掌は空を掴んでいた。
───夢か。
拳を握り叩き付けた。
耳は駆け寄る音を捕らえる。

「陛下?」

瞬間、吹いた暖かい吹雪。
彼女と同じ黒髪とあまり似ていない、けれども愛らしい顔立ち。切れ長の瞳が心配そうに足れた。

「どうなさいましたか?」
「いや」

腕を引く。
すると動揺の気配。
それはしばらくもぞもぞと動いた後、頬を染めて寄りかかる。

「陛下?」
「名前で呼べ」
「……戩華さま」

指の間から砂の様に流れた髪。
その感触にしばし酔いしれた。

2009.11.25


*   *   *

居眠りしてる…珍しいな
「ふむ」

戩華は顎に手を当て、寝室の卓でつっぷして眠る女官を眺めていた。
思いついて耳元に口を寄せ、囁く。



ぴくりと動いた。
覚醒は近い。
悪戯心から濡れ烏色の髪をまとめる簪をほどき、ひとすじくちづけた。

「ん……んん?」
「起きたか」

がばっと起きる上がると、彼女は沸騰したやかんの様に顔を赤く染める。

「陛下ー!?」
「おはよう」

戩華は不敵に微笑むと、見せつけるようにもう一度くちづけた。

2010.1.11
*髪ですよ(笑)


*   *   *

バレバレな嘘
聞き知った声に振り向く。

「君は……」

わずかにくぐもった声。癖のない、真っ直ぐの黒髪が肩口を流れた。
そして彼の特長と言うべき珍妙な仮面。

「黄尚書!!」

の表情に明るい光が差す。

「久しいな」
「はい」

光景は一枚の絵画のごとく。長身の男女の楽しげな談笑が後宮の庭に響いた。



その夜、

「……どこへ行っていた」

戩華はむすりと黙り込み、彼女の手を引いた。次いで首もとに鼻を寄せて、突き放す。

「陛下? どこって別に」
「移香」
「はい?」

ふい、と目を反らしたまま合せようとしない。
は香りというヒントから自分の衣をくんくんと嗅ぐ。が、理解できない。
じれた彼女は小首を傾げて覗き込む。

「陛下、無視しないでください。 なんで怒ってるんですか!?」
「わからぬなら別に良い」
「じゃあ怒らないでください」
「何の事だ」

しばし見つめ合う。
くしゃり。
戩華の指が彼女の髪を撫でた。

「陛下?」
「移香などすぐに消える……」

抱きしめられた腕の中で、顔に熱が集まるのに気づく。
夜の闇に虫の声が響いていた。

2009.11.27
書き上がってみたら題名と関係なくなっていました。


*   *   *

周囲に従の素晴らしさを力説する主。

「あれは可愛らしいからな」

主の突然な発言に霄太師は白い眉をひそめた。
すると厚顔不遜な仕草で、自らの髪をかき上げる戩華。

だ。冬姫ほどの美人ではないが、あれはあれで愛らしい」
「……はぁ」

生返事をする。冬姫、数十年前に消えた縹家の娘。
蒼遙姫の生まれ変わりと恐れられた存在。彼はそれが事実であると識っていた。
しなびた指先で頬をぽりぽりと掻く。

「しかして主上、それと今朝の朝賀にいらっしゃらなかったこととどういった関係が?」
「……ふむ」

威厳のこもった仕草で頷く。

の寝顔が愛らしかったので眺めていた」
「……」

霄太師は無言で立ち上がると、彼の見えない場所まですたすたと歩き、

「彩雲国は終わりじゃぁあ!!!」

むせび泣いたと言う。

2011.08.03
この当時、彼は既に病床に伏せっていますが朝議は時折出ていたのではないかなと推測


*   *   *

危ない!…ご無事でしたか?


*   *   *

今日の仕事は終了。の、はずが


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従の部屋を見てみたい


*   *   *

背中を流しなさい


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寝てるところを起こした理由


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「ありがとう」

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