R18気味です。
正式なお付き合い後からインターハイ前の出来事。
闇の中、ベッドが軋む音が妙に耳に付いた。
のし掛かる男の身体が月明かりにうっすらと照らし出され、思わずため息を付きそうになる。
「……くっ」
抱きしめるように背中に手を回した。すると熱い吐息が私の首筋にかかり、律動が激しくなる。汗が伝い落ちて、シーツを汚した。
「ぁっ……ん」
息を吸い込んだ瞬間、喘ぎ声が口を突いて出た。
それが熱い身体と混じって、止めどなく零れる。そして頂点を迎えた。
***
まだ七月だというのに、最高気温は三十三度。明日も暑くなるのか夜になっても気温は大して下がらない。一人で寝る分には、温度設定高めのエアコンで事足りた。けれど、
「隼人、暑い」
「ん?」
太い腕が腰に巻き付く。かいくぐってエアコンを強にしてみたけれど、髪は汗で肌にべっとり張りつきとても気持ち悪い。
さらに裸のまま抱きついてくる男のせいで首筋から汗が流れ出した。
「もう、暑いってば!」
「オレは、これはこれでイイ気がするけどな」
その言葉に深いため息を吐き出し、抵抗を止めた。
背中に密着する筋肉質な胸板を感じながら、腰に回った手の甲を抓る。くすぐったそうな笑い声に頬が緩んだ。彼の笑顔を見るだけで全て許してしまいそうになる。
だから目をそらして別の話題を出した。
「そういえば、泊まりたいだなんて珍しい……というより初めてだよね? 寮は大丈夫なの」
明日が土曜日だから? と問いかける。
今日は本当に驚いた。仕事が終わり、帰ってきたら玄関の前に隼人がいた。しかも今日は泊まっていくという言葉に目を見開く。
彼はいつも日曜の午後に来て、その日中に帰って行く。
晴れて正式に付き合いだしたとはいえ、まだ学生。その当たりの線引きはこちらがちゃんとしなくてはいけない。けれど私と目が合った途端浮かべた輝くような笑顔に眼球を焼かれた。
……私って駄目な大人。
でもなんだかんだでしっかりしているので、外泊の手続きはちゃんとしてきたのだろう。そう思って聞いたのに、「んー?」とか言いながら、誤魔化すみたいに私の髪に顔を埋めた。
「やだ、汗臭いでしょやめて」
「イイ匂いだけど」
「離れて」
しかし腰に回った腕が強く抱きしめてくる。
彼の胸板が背中に密着し、ドクドクと鳴る心臓の音が聞こえた。
「隼人、暑いってば。あと誤魔化さないで。外泊届け出してきたのよね?」
「ん……尽八達に誤魔化してもらうように頼んでおいた」
「は!?」
思わず身体を反転させ、向かい合う。胸の中に埋没させようとする力に逆らって、正面から見据えた。垂れた瞳がバツが悪そうに眇められる。
「君ね、学校にバレたらどうするつもりなの。インターハイ近いんだよ」
でも、んーとかうーとか唸るだけで何も言い返してこない。
さらに問い詰めようと口を開いた。その瞬間、隼人の携帯が鳴る。しかもそれは一度では終わらず、短い着信を何度も告げた。さすがに不思議に思って首を傾げる。
「取らないの?」
「ああ、メールだから」
「ふーん? それにしても数が多いね」
何かあったのではと心配になり眉根を寄せる。すると彼は吐息混じりに呟いた。
「多分誕生日のメールだから平気、だろ」
「誕生日!?」
勢いよく起き上がろうとしたら、抱きとめられた。
布団に絡まりながら暴れる。しかし易々と押さえ込まれてしまった。
「誰の!? 隼人の!? どうして言わないの?」
荒い息をついて、問い詰める。
だけど彼氏の誕生日を質問したことがない私も私だ。
はぁーとため息を付いて、身体の力を抜く。
「聞かなくてごめん、でも家に来たとき教えてくれればいいのに。誕生日だって知ってたらもっと美味しいものを食べに行こうって誘ったよ」
「カレーうまかったぜ」
「カレーなんて……」
料理下手ながらも、簡単レシピくらいなら作れるようになった。
今家にある材料で、彼のお腹を満たせそうなメニューはそれくらいしかなかったのだ。良いと言われても悔いが残る。
「そうだ、せめてコンビニでケーキ買ってくる!」
思い立って腕に力を込める。
しかしまたもや阻止された。
厚い胸板に抱き込まれて、逃げられないほど強く抱きしめられる。
「こんな夜中に外出たら危ないだろ」
「コンビニ、目の前だし」
「ダーメ」
腰が砕ける甘い声音が耳朶をくすぐった。
それは背筋を伝ってお腹の奥に響く。
甘い眼差しが私を縛り付けた。自分の声音が甘く蕩けるのを自覚しながらも止められない。
「でも朝、早く帰っちゃうんでしょ。私だって隼人のお祝いしたい」
首筋に手を回し、顔を近づける。髪に指を差し入れ、厚いくちびるに軽く触れた。
「オレはがいてくれれば……」
再びくちびるが重なり、言葉の続きが聞こえなくなる。
吐息が混ざる。
汗が滝のように流れおち、彼の体温が私を燃やす。
「た、誕生日……だからね」
言外にこんなにするのは今日だけと言い含める。
隼人はベッドと私を揺らし、満面の笑みを浮かべた。
「誕生日プレゼントだな」
何度も、激しく、そして優しく。
それは私が気を失うまで続いた。
けれど、冷たいタオルが身体を拭ってくれる感触が僅かに意識を浮遊させる。
「……おめさんが隣に居ないと安心して眠れねぇんだ」
縋るような声が聞こえた様な気がする。
無意識に、「おやすみ」と返して手を握りしめると、一瞬の間の後、
「……おやすみ」
泣きそうな囁き声が返ってきた。
手を伸ばすと指先が触れ、胸元にすっぽりと頭が収まる。柔らかい髪を撫でると寝息が聞こえた。
有井さん(pixiv)の素敵新開君から連想して書かせて頂いたお話です!
イラストの新開君はもっとかっこいいっ!とは思うのですが私が書くとこんな感じです。
どうもありがとうございました!!
掲載許可を頂きましたので載せさせて頂きます。→
イラスト