普通の恋愛

外出をする第二話
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桜舞い散る季節。
神保町の構内を一組の男女が歩いていた。
黒のパーカーに白いシャツ、胸元には十字架のアクセサリー。明らかに染髪された銀色の髪にはトレードマークのニット帽を被っている。少々目つきが悪いものの、美形と言って差し支えない青年だ。
対して女は黒いワンピースが透ける様に白い肌と対照的な、清楚な雰囲気を持つ少女。アンバランスな様でいて、しっくりと馴染む。そんな二人だった。
少女───はくちびるを尖らせる。

「福田さん、追いつけません。 ゆっくり歩いてください」
が早く歩けばいいだろ」
「ヒールが高くて歩きにくいんです」
「なんでそんなもん履いてくるんだよ」
「だって、弟の職場にご挨拶に行くんですから、これくらい当然です」
「あっそう。 でもそれは俺には関係ないね」
「福田さんはいつも適当でいいですね」
「けっ」

真太は内心で、「だまってりゃ可愛いのに」とひとりごちた。
濡れたように輝く黒曜石と長いまつげ。くちびるは思わずむしゃぶりつきたくなる妙な色気を漂わせている。だまっていれば可愛い。
そこまで考え、明後日を向いた。
───でも性格が悪い!
料理上手なのは正直助かった。おかげでアシスタント中うまい飯が食える。掃除も勝手にやってくれるから部屋も綺麗で過ごしやすい。だがそれでも、この気の強さはいただけなかった。
しかも俺にだけつっかかってくるのは何故だ。中井さんには普通に接しているし、弟には基本甘い。俺に惚れたのか?と最初思ったが、そんな理由でここまでしないだろう。
見た目が好みなのは認めてやる。
だけど俺はこの女が大嫌いだ!!
なのにどうして一緒に集英社へ向かっているのか、

「集英社に行くんですか?」「だったらどうした」「一緒に連れて行ってください」

金未来杯の原稿の打ち合わせに行こうとした。そしたらあいつが来たいっていうから勝手にさせた。
予想はしていたが、案の定電車の中でも道のど真ん中でも後ろをついて離れない。都会が怖いらしい。
上京したてはそんなもんかもしれないけどな。
と、なると悪戯をしたくなるのが男の性というものだろう。
わざとはぐれたら涙目で追いかけてきて、転けた。ざまあみろ。決して追いかけてくる時の顔が可愛いからやったわけじゃない。今ちょこっと服の裾を掴んでいる仕草がヤバイなんて断じて思ってない!
断じて!

「おっ」
「あっ福田さん」
「は、初めまして高木です」

そんなことを考えていたら、真城くんと出くわした。相方も一緒だから亜城木夢叶か。彼らも金未来杯に出すのか。……今度はゼッテー負けねえ。
決意を新たにした。
すると背後からすっかり忘れていた存在が顔を出す。

「こんにちは」
「え……!? 福田さんの彼女ですか!?」
「おーっ!!」

見合わせた二人の顔が、如実に可愛いと言っていた。
は愛想よくお辞儀をしている。肩口で髪がさらりと揺れていた。

「ちげーよ、新妻くんの姉」
「新妻です」
「「ええー!!??」

真城と高木が顔を見合わせて驚く。
気持ちはわかるよ。似てないもんな。
次いで小突き合って自己紹介。

「どうも、高木です。 亜城木夢叶ってペンネームでやってます」
「同じく真城です」
「亜城木さん……って? ああ! 弟がお世話になっています」

は瞳を輝かせ、二人に向かい合った。
それになんとなくムカつく。

「行くぞ」
「え? ちょっとまだご挨拶がすんで……」

言いながらも手を引くと大人しく着いて来た。

「あの……真城くん、高木くん、これからも弟のことよろしくお願いします!」
「「こちらこそ!!」」

ペコリと頭を下げる。
なんだよ、なんか気にくわねぇ。
集英社に入ると、は笑顔で編集長以下に地元の菓子を配っていた。案の定と言うか、編集部は、「可愛い」の大合唱でやっぱりムカついた。
福田さんは根性曲がりだと思います。