普通の恋愛

彼女の視点で見てみよう第三話
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この人、キライ。
それが福田真太への感情。
仕事場に夜中に乗り込んで来て、迷惑も顧みず叫んだのは悪かったと思ってる。
でも生まれて始めての一人きりの上京。だのに待てど暮らせど迎えは来ない。結果待ち時間三時間。住所のメモを片手に探す事二時間と半分。
パニックしたって仕方ないと思うんだ。

ニット帽を見上げた。
東京に来て、早一週間。エイジの隣りの部屋が空いていたのは本当にラッキーだった。だけど担当さんにはタイミングが悪く、一度も会えていない。そろそろ編集長にも挨拶しておきたいと思っていた。
でもエイジは部屋から出ようとしないし、一人で集英社まで行くのは怖いから嫌だ。だから彼が「雄二郎さんに呼ばれたから行って来る」と聞いた瞬間、好機到来!と思ったのだ。
別に一緒にお出かけしたいわけではない。
そしたらすっごくイヤそうな顔をされた。結構ショックだった。しかしそれを顔に出すのは嫌。だからすまし顔で流した。
すると、「ヤな女」
……。
毎日カップラーメンばかり食べてるから、エイジのついでに(あくまでついでに!!)ご飯作ってあげてるのに。エイジの倍くらい食べるくせに!なのに一回もおいしいって言ってくれないくせに!福田さんなんて大っきらい!今度グリンピースを山盛り入れてやるんだから!
怒りを込めて背中を見つめる。
遠目から見ると華奢なのに、近づくと意外と広い背中。
瞬間、間違えて抱きついてしまったときの強い腕の感触を思い出す。頬に熱があつまるのを感じた。
ぺちぺちと叩いて戻す。
すると振り向いた。

「なにやってんだ、置いてくぞ」
「福田さんが歩くのが早過ぎるんです」

意地悪!大っキライ!
その後もどんどん先に行っちゃうから、偶然出くわした真城くんと高木くんとも全然お話できなかったし。編集部に入ってからも妙に機嫌悪そうで、挨拶が終わったらさっさと帰れとか言われた。
何言ってるの?私が一人で地下鉄に乗れるわけないじゃない!
福田さんのいじわるー!!
が思いっきり舌を出した瞬間、打ち合わせ中の真太と目が合う。

だ・ま・れ!!

そんなジェスチャーに、ぷいっと身体ごと視線を逸らす。
編集部一同からニヤニヤ、あるいは「若いっていいよねー」という生暖かい注目を集めていた事に彼らは気がついていなかった。
そして夏が来ます。