第一話

夢の中で男が死ぬ。
見知らぬ装束、見知らぬ場所。
崩れる城で、男は死ぬ。





さよなら、現代。





じりじりじりじりじり。
目覚ましの不快な音とともに起き上がる。
は幼さに似合わぬ、重いため息を吐き出した。そして神経質なほど丁寧にベットを整え、下ろしたての洋服に袖を通し、髪にくしを入れる。
鏡の中にはストレートの黒髪、黒曜石の瞳、透けるように白い肌の子供。日本人形が動き出したらこんな風に見えるのかも知れない。
は階段を下り、誰もいないリビングへ降りる。そして母親の書き置きをぐしゃりと握り潰し、PCの電源を入れた。
瞳に映る世界情勢。それを眺め終わると、年頃に見合わぬ仕草で肩肘をつき、通信教育ソフトを立ち上げた。今日は中でもお気に入りの教科、歴史と政治について学ぶことにする。様々な言語が入り乱れて、コンピューターの講義は続く。
は所謂天才少女であった。特定の分野に関しては大人顔負けの才能を発揮する。
そして小一時間ほどで本日の課題を済まし、テーブルの上からお金を取り上げた。次いでお気に入りのメーカーの菓子を口に放り込み、外出の準備を整える。

扉を開いた瞬間、強い陽光に目を細めた。吹いた一陣の風に眉を顰める。
そしては一度も振り返ることなく歩き出した。
彼女は未だ愛を知らず、神を認めず、運命を知らない。

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2008.11.03