第二話

道路を塞ぐように歩いていた女子高生が耳障りな笑い声をあげた。
二つの巨大スクリーンから響く、流行のアーティストの曲。
混ざり合って、不協和音を響かせた。

ざわざわざわざわ。

群衆が意味の成さない言葉を放ち、車は威嚇するようにクラクションをならした。そして交差点を渡る人々に取り残されて。
空を見上げた。
すると狭い空を一羽の鳥が横切って。
世界の中心で立ちすくむ。
そんな錯覚。
目を閉じた。
迫るクラクションと人々の罵声が、響き渡り、遠くなる。
そしてはこの時代から消失した。





消えた文明。





山陽地方、白虎村。

「行き倒れだって?」
「まだタタラさまと同じくらいの年頃じゃないか。可哀想に」

白虎村は四方を砂漠に囲まれた土地にあった。場所柄豊かとは言えないが村人達の団結力の強さと、なにより、「運命の少年」という未来の救世主の存在からか他の村と比べても活気がある。
そんな村に一人の少女が迷い込んだ。

は思った。
なぜこんな変な格好をしているのだろう。ひらひらしていてサーカスか、どこかの国の民族衣装みたいだ。それに景色も変だ。確か鳥取に砂丘があったと記憶しているが果たしてこんなに広かったか。疑問は浮かんでは消える。
心配するふりをして馴れ馴れしく触れて来る手も不快で堪らなかった。でも振り払う気力もなく、力が入らない身体を無理矢理起こそうとした。

「大丈夫かい?いまおばさんがお水を持ってきてあげるからね」
「飲めるか?」

タタラさま、と隣りのおばさんが呟いた。そして波のように広がるざわめき。
製鉄炉がそんな風に呼ばれていたはずだ。タタラ、タタラ場。
同い年くらいだろうか。服装はまわりのサーカスと大差ない。だが利発で、どこか気品ある少年だった。それにしてもこの年で周囲から「さま」扱いとは……?
だが彼が手に持つ水袋を見た瞬間、感じた激しい乾きに思考を中断し、飲み口から貪るように体内に水分を注いだ。

「ゆっくり飲んだ方がいい」

しかしうまく飲めずに吐き出した。なぜコップで持ってきてくれないのだろうか。
背中を軽くさすられる。一瞬睨もうとして、やめた。他人に触れられるのは不快で仕方なかったはずなのに、不思議とタタラはそういった感情を与えない。

「わたしはタタラ、君は?」
「…………」

名字は名乗らなかった。

「ナギのところで手当をしてもらおう」

彼自身名字を名乗らず、聞き返さなかった。その意味、理由。
それを知った瞬間、は狂ったように笑い声をあげた。

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2008.11.04