ふたつの世界、ふたりの世界

はい、あーん

ふたりが結婚したら?というお話。未来編の子供たちが出てきます。





郊外の一戸建て。
柔らかい日差しが差し込むリビングに無造作に髪を縛った女性と、二人の幼児がいた。

「ぽっぽぽ、はとぽっぽー、まーめが欲しいかそらやるぞ、っとはい」

幼児椅子に座る子供たち。
対して母は歌の陽気さとは裏腹の表情で向かい合っていた。
今月一歳の誕生日を迎えたばかりの和花と圭は二卵性双生児。

「「まーま」」

やや色素の薄い髪にぱっちりとした瞳。二人は双子というのも相まってよく似ていた。
だが性格の違いはそこかしこで表れ始めている。
はレンゲを止め、ため息をついた。

「圭はホント小食よね」

なんでも食べる和花と、食べてくれない圭。
義母からは、「ちょっとくらい食べなくても大丈夫よ、ちゃんったら心配性さん☆」とからかわれたが、やはり不安だ。このまま食べなければ死んでしまうのではないか?
柔らかい頬を突きながら、「けーたんうまうまは?」と問いかける。すると娘がレンゲごと食べそうな勢いで口を開いた。

「だーだー!」
「のんちゃんちょっと待ってね。けーたん、ママにあーんは?」
「ぶー」
「のんのー」

口をぷぅっと尖らせてスプーンを拒否する圭。
そっくりの表情でぶーたれた和花。
離乳食をつけたぷにぷにほっぺを赤く染め、二人そろって抗議をしていた。
は眉根を寄せて思案し、最終手段を使うことにする。隣の部屋に向かって叫んだ。

「パパー!ちょっと来て」
「どうした?また圭か」
「そうなの、ご飯食べてくれなくて」
「ぱぷぅ!」
「ん?どうした」

ヤニの下がった顔で、娘の呼びかけに答える。人差し指を握らせてご満悦だ。
しかし妻に呆れ顔に気づいて咳払いをしながら答えた。

「圭、食べないと強く……はなんなくてもいいけどよ、大きくなれないぞ」
「だー!」

頬を膨らませた圭。
静雄は頬についた米粒を取ってやりながら、妻に視線を送った。
ごくりと喉が鳴り、決然とした表情になる。

「……やるのか」
「もちろん!」

にっこり笑うと、レンゲを持ち上げた。
手招きをして夫を真横に座らせる。

「ほらけーたん、パパが見本見せてくれるよ」
「「ぷー?」」

双子がそろって首を傾げ、好奇心一杯に父親を見つめた。
静雄は気恥ずかしい思いに頬を掻き、覚悟して妻に身体を向ける。次いで口を開いた。

「あーん」
「……あーん」
「おいしちい?」
「……おいちい」

夫を放置し、はすぐさま子供達に身体を向け直す。

「次はけーたんがあーん」
「あー」

今度は素直に口を開けた。
もぐもぐと租借し飲み込む。喜色満面、賞賛の言葉を贈った。

「けーたんよい子!」
「俺は?」
「パパもえらいえらい」

おざなりな褒め言葉に照れる静雄。
しかし息子が発した次の言葉に勢いよく振り返った。

「ぱいぱい」
「のんのー」
「二人とも?」

たしーんたしーんと合わせて椅子を叩く双子。ピンクと青のレースが揺れた。
離乳食をテーブルの上に置いて、服をまくり上げる妻を見つめ、

「俺もぱいぱい……」
「パパはあっちにいってなさい」

期待に満ちた表情はすぐさま失望へと変わった。しょぼくれて立ち上がると、ウィンクと共に甘い声音が耳朶をくすぐる。

「静くんはあとでね」
「おう!」

スキップをしそうになるのを堪えて彼は部屋を出る。
今日も良い天気だな!呟いて食器洗いに戻るのだった。