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2010.07.25
* * *
初詣で
「しーずくん! 初詣に行こう、ね、初詣ー!!」
「……あ?」
気乗りしない顔を覗き込む。
ソファーに深く腰掛け、ふぅーと吐き出された紫煙。
大きく開いた膝の間に身体を滑り込ませ、右膝を手で揺すった。
「ね、ね、ねぇってば!」
「うるせぇ」
ぴしゃりと言い切られた言葉にむぅーと睨む。
するとぼそぼそと語られた理由。
「人ごみ、苦手なんだ……お前の前でキレたくねーし」
降り注いだ自嘲気味の言葉にしばし思案する。
そして、
「待っててね」
言って自室に駆け込んだ。
しかして小一時間後、
「じゃじゃーん!」
「……なんだそれ?」
削られた割り箸に不思議そうな表情をした静くん。
私はにっこり笑い、「おみくじ!」と答えた。
「さあさ、引いてくださいな」
「……おう」
複雑そうな表情で引いた棒は大吉。
「大吉です!」
「……さんきゅ」
照れて微笑む。
それがあまりに可愛かったので、「大吉特典!」と叫んで頬にくちづけた。
* * *
入試前夜
「受験勉強」
「あ?」
「世間は今そういう時期じゃない?」
「ふーん」
「静くんは高校入るときどうだったのかなって」
「……来神はそんなにレベル高くなかったからな」
「でも、がんばったんでしょ?」
「……それなりに」
なんでもないこと、と主張するように目を反らす。
小さく笑って、頭を撫でた。
「静くん、良い子!」
「ばっ……やめろよ」
「良い子良い子」
* * *
春休み
「春休みって、中途半端だよね」
「そうか?」
「大学でも行ってれば違ったのかもしれないけど、バイトしてた記憶しかないなぁ……卒業旅行もしなかったし」
「友達とか、いなかったのか?」
「……うーん、学生時代は色々あったからね」
「そうか」
ほっとしたような、悲しいような複雑な表情を眺めて、肩に寄りかかった。
「今は静くんがいるから楽しいよ」
こてっと胸元に寄りかかると、上気した頬が見えた。
* * *
聖夜
キラキラ輝くイルミネーション。
吐く息は白い。
思わず吐息が漏れた。
「わぁ……」
繋いだ手をぎゅっと握りしめて眺める。
「綺麗だね」
「……ん」
頷く気配。
嬉しくなって見上げた。
合う視線。
見つめ合う。
「静くん」
「なんだ?」
「好き」
ゲホゲホと咽せる音が聖夜、響き渡った。
* * *
子ども時代
「初恋はパン屋のお姉さんなんでしょ」
「ゲホゲホゲホ」
漫画のように咽せた彼。
背中を摩り、でも追求はやめない。
耳元にくちびるをよせ、ソファーに腰掛ける静くんを抱きしめた。
「でしょ?」
「……昔の話だろ」
「綺麗な人だった?」
「……ん? ちょっと待て、よく考えたらなんでお前がそんなこと知ってるんだよ」
「なんででも!」
身を乗り出して、顔を覗き込む。
するとバツの悪そうな表情になった。
体勢を戻して、肩に顎を置く。
「初恋は叶わないのものだから、みんなそうよ」
「……俺の場合……」
「同じなのっ」
強く言い切ると驚いた顔でこちらを見た。
口角が上がる。
「すきあり」
ちゅっ。
音を立ててくちびるが合わさる。
「な!?」
そんな近づく方が悪いんですー、言ってもう一度くちづけた。