平和島家の長女

弟はキレては馬鹿力を発揮し、入院してはまた喧嘩をし。繰り返して中学に入学する頃には「人外」と言っても過言ではないほどの「暴力」を身につけていた。
結果、自分が化け物なのではないかと悩んでいる。
バカだなーと思う。
他人は「自業自得」と言うのだろう。化け物と。
でも違う。
変なのは静雄ではなく、「平和島家」なのだ。
証拠はここにある。
道着の帯を締め直しながら、転がる年嵩の少年を見下ろした。

「影次郎、生きてるー?」
「……殺す気かよ」

道場の片隅でぼろ雑巾のように丸まった高校生。
床に顔をつっぷしたまま動かないので足先で軽く蹴ってみた。

「痛てっ!」

私は中学、こいつは来年大学生。入門したばかり頃ならまだしも、未だに圧勝できるのはどう考えてもおかしい。男女に先天的な力の差があることくらい私だって理解していた。
まして写楽は楽影ジムの息子。先日カツアゲしようとしてきた馬鹿数人を軽く伸してやったと自慢してたくらいには強い(そして館長にこっぴどく叱られてた。馬鹿だ)
でも実際問題勝てる。
何故か?
私たちの間には絶対的な「何かが」存在する。 わかりやすく表すなら「才能」
私には男女差すらものともしない、チートと呼んで差し支えない「血」が流れていた。ダイヤの原石だろうと磨かなければ光らない。この力は原理だけは歪めず。それ以外は破格のものを私たちに与えた。
鍛えれば鍛えただけ結果の出てしまう才能。
静雄は火事場の馬鹿力の乱用により超人的な肉体を手に入れ、私は武道の頂を目指すうち異様に強くなった。
二つは同一。
「平和島」とは鍛えば鍛えただけ結果の出てしまう、肉体の限界が存在しない「血」なのではないかと考えた。
だから決して、静雄一人が悪いわけでも、変なわけでもない。

「ってことなのかなって思うんです」
「ほぉ、そりゃすげぇな」

ファミレスでわらび餅をつつきながら、ドリンクバーのジュースにストローを差し込み音を立てて飲む。
向かい合うのは同中の田中先輩。
静雄のことがきかっけで親しくなったが、面倒見がよくて、今や私にとってもかけがえのない先輩だ。

「にしても、お前も丸くなったよな」
「そうですか?」
「女の子に出会い頭、かかと落とし食らったのなんて生まれて初めてだったよ」
「あれは……」

だって静雄が急に金髪になんてするから。「あ? ……別に」とか誤摩化して説明しなかったあいつが悪い。
ストローを噛みながら、田中先輩を前髪の影から見上げた。

「先輩には感謝してますよ、ホント」
「礼言われるようなことはしてねぇべ」

頬をポリポリ掻くのを眺めて、考える。
彼と出会ってなかったら。
───静雄はもっと苦しかった。

「……ありがとうございます……」

照れ隠しに目をそらして呟いた。
偶然見えた窓の外を仲の良い後輩が通る。
視線を戻すと、先輩の顔が赤かった。

「……先輩?」
「それは反則だろ……」
「……?」

翌日、平和島は卒業生とつきあっている!という噂が流れていた。
噂を流したやつは砂にしてやった。


(中学三年)
*中学校時代のあだ名は「来神最強の番長」