平和島家の長女

来神高校に入学して半年以上の時が過ぎた。
もうすぐ二学期も終わる。
静雄はお馬鹿さんなので、現在受験勉強のまっ最中。
幽は群がる女の子を日々スルー。来年から中学生だし、バレンタインデーに段ボールを持ちだす日も近いかもしれない。
二人とも顔は結構似てるのになんで"モテ"にここまで差ができてしまったのだろう。この分だと静雄は高校に入っても彼女なんぞできまい。幽は幽で違う意味で心配だ。
ちなみに私は、

「獅子崎君、一緒に帰らない?」
「おう」

彼氏ができた。
容姿端麗、頭脳明晰、周囲にも慕われ、その上家はお金持ち。完璧超人とは彼を指して使うべき言葉だろう。その上弱きを助け強きを挫く理想的な正義の味方なのだから参る。
正直言って彼の信念と私の信条は違った。私は正しいことをしたくて鍛えたわけじゃない。するつもりもない。
けれど正義の味方に一目惚れをした。
だから相手からも好かれたいと思った。
そして喧嘩を控え、ライバル達と争い、告白し。薔薇色の学生生活!……と思っていたのだが。

「姉さん、最近無理してない?」

末の弟が表情筋を動かさず問いかけた。静雄も牛乳を飲むフリをしてこちらに注目している。

「……別に」

目をそらすと、無表情が同じ方向についてきた。

「うぉ!? びっくりさせないでよ!!」
「姉さんも兄さんも、ストレス解消が下手だよね」
「小学生がわかったようなこと言わない!」

デコピンをする。
幽はおでこを撫で、静雄は何故か羨ましそうな顔でこちらを見ていた。
考える。
まあ……弟の指摘は正しい。
獅子崎君に好かれたくて、ちょっと……かなり無理をしている自覚はあった。「姉御ー!!」彼の前で呼ぼうとしたやつは裏庭にある桜の肥料になった。「よう、お前来神中の番……」言いかけたままお空の星になった。
内緒でこっそり。

獅子崎君は強い。
彼自身が不良っぽくあろうとしたことなど一度もない。だが周囲は頼り、喧嘩を重ねた。そのせいか、二人でいるとき突っかかってくるやつらを全て自分目当てだと思っていたようだ。
……今更八割私のせいだなんて言えない。
しかも中学時代の噂を知っていたのに、良い風に解釈をされていた。

「噂ってホント作り話ばっかりだよな。はこんなに可愛いのにな」

何故素面でこんなことを言えるのだろう。
赤面したのは気のせいだ。
彼は私をす、す、す、す……よく思ってくれてるらしい。ならば期待に応えずにはいられない。
喧嘩を控え、道場に通う回数も減った。影次郎には色気づきやがってと言われたので、ボロ雑巾にしてやった。
すっきりした。
師範は「お年頃だしな」なんて言い、美影とは男連中に隠れて恋愛トーク。なんでも同級生に気になる男子がいるらしい。
話を戻してまとめると、暴れる機会が減った。
幽の指摘通りだった。
でもどうすればいいのかわからない。感情の整理の仕方も、折り合いのつけかたもわからなかった。ただ彼のことが好きで仕方なかった。
ただそれだけだった。