平和島家の長女

桜は先日の突風で散り、葉桜。
二年生は入学式に出席しなければいけない義務はない。だけどいた。
なぜなら獅子崎君が在校生代表で挨拶するのだ。
となれば見たいし、彼に一目惚れする女の子が続出するだろうから、睨みもきかせなければいけない。
ついでに静雄の晴れ姿も見れる。
あくまでついでだ。
昨年から朝起きるたびに身長が伸びまくったせいもあってか、来神の制服がよく似合って、我が弟ながらかっこ良かった。
でも見れて嬉しいなんて全然思ってないし。
そして入学式はつつがなく完了。ちゃんと校長の長話に耐えられたようだ。後で褒めてやろう。
今日くらいは弟と一緒に帰るかと獅子崎君と目立つ場所で立ち話をした後、別れを告げた。
正門前で待つ。

「静雄!」
「おー」

小さい声で「姉ちゃん」と呟き、トコトコ寄ってくる。
彼の後方にはどこかで見た覚えのあるピョンピョン髪のメガネがいた。

「どうも、お久しぶりです」
「えーーーと、あれだよね。小学校一緒だった……新、新太!」
「新羅ですよ、やだなぁ」

言ってヘラヘラ笑う。

「あんたもうちに来たんだ」
「ええ、よろしくお願いしま……セルティ!!」

突然校門の外に向かって全力疾走を始めた。
昔から変な子だと思ってたけど、振り切ったのか?
でも振り向いた瞬間、思考は飛んだ。
漆黒のライダースーツと同色のバイク。
そして特徴的な黄色いヘルメット、耳付き。
指を突き出して叫ぶ。

「猫耳ライダー!」
『!?』

池袋近辺に住む中高生なら一度は耳にしたことのあるであろう都市伝説。

「首なしじゃねぇのか?」
「何言ってるのどうみても猫耳じゃない、静雄ってば馬鹿じゃん?」
「……馬鹿? まあ見た目は確かにそうだけどよ」

そんな会話をしていると、猫耳ライダーは変なボディーランゲージをし、新羅は四字熟語を叫びながらデレデレしていた。
直訳すると「猫耳ライダーはやめてくれ」「セルティ可愛い!」
後半は聞かなかったことにして、都市伝説に歩み寄った。
場合によっては猫耳呼ばわりをやめてもいいかなと考えながら。

「実物は初めて見たわ。私は平和島、これはうちの弟の静雄。よろしく」

すると人間臭い仕草で頭を下げた、彼、彼女?
新羅に「セルティ」と紹介された……外人さん?
ちらりと弟を眺め、視線に含まれる意味に気づいた。
猫耳呼ばわりはやめておこう。
セルティからヘッドロックをかけられて、気持ちよさそうな悲鳴をあげる新羅を横目に、弟を促して帰宅した。






夕日を背に、延びる影を見つめた。

「……姉ちゃん、あいつなんかさ」
「うん」
「俺と同じなのかもって思った」
「友達になれるといいね」
「……ん」

頭には手が届かなかったので、背中を思い切り叩いた。
咽せる静雄にニヤっと笑う。

「なんだよ!?」
「静雄のばーか」
「んだと!?」
「あはは」

襲い来る拳を避けて踵落としを食らわした。