当主様に恋して



転がり落ちる

ブレザーが吹き付ける風に靡いて、大きな皺を作る。
赤いリボンが首筋に絡み付いて後方に流れ、校則違反にならない程度に短く折り返したスカートから、水色の影が見え隠れした。
しかしそれを恥ずかしいと感じる余裕はない。

「きゃあああああああああああーーーーーーーーー!!!!」

彼女の乗った自転車は、転がり落ちる玉の如くスピードを増していた。
ブレーキが壊れた。
次の瞬間、映った急カーブ。
曲がりきれない!
思った瞬間には、自転車が跳ね身体が浮かぶ。

落ちる!!

次いで感じた浮遊感に、地面に叩き付けられことを覚悟した。








だがいつまでたっても痛みは訪れない。
むしろ暖かい、感触がして。
怖々目を開くと、

「大丈夫か」

くちづけられそうなほど、迫った男の顔。
抱きとめた腕。椿は状況も忘れ、その端正さに見蕩れる。
視線が外せない。
例えるなら冬の夜空。透き通って、遠くて、冷ややか。
けれど触れてみたい。

「聞こえてるか」

彼の長い髪が言葉に揺れた。
呆然とした意識が正気を取り戻すと同時に、羞恥心がこみ上げる。

「あ……うん、うん! 聞こえる」
「そうか、じゃあどいてくれ」
「ごめんなさい!!」

心臓が早鐘のように打った。









「三双萩判李……あんな人うちの学年にいたんだ……」

立ち去る影を見つめて。
触れられた腕を撫でた瞬間、頬が夕日より赤く染まった。









2009-06-22

シチュエーションはハヤテのごとく!のハヤテと歩の出会いを参考に……というかほとんどそのままです。
判李さん、格好良く書きたかったのですが……マガリさんごめんなさい!でも好きです(告白)
高校一年のある日の出来事。

written by Nogiku.