帰りたい。
決まっている。でも、
「その為に人を殺せるか?」
アレは簡単にはそなたを離さない。
「其方の祖母は、縹家の異能者じゃ」
窓に叩き付ける雷雨を今でも覚えている。
祖母はどこか不思議な雰囲気を持つ、女性だった。彼女が亡くなったのはわたしが小学生の夏のこと。
異世界の異能者だった。その事自体には驚きを感じない。なぜなら彼女にはそうと呼ぶに相応しい浮世離れした何かがあったから。
「名は冬姫。 妾とは姉妹のようなものだった」
彩雲国に生まれた。しかし祖母は、冬姫はわたしの世界に来た。
縹璃桜から逃れて。
つまりわたしは祖母の身代わりとしてこの世界へ攫われた。
□□□
「ねえさま、どちらにお出かけされてたの? 心配しましたわ」
「うん……ごめんね」
そして夜が来る。
外は闇に包まれ、満月が輝いていた。
玻璃の窓に指を這わせる。
カラリ
力が抜けて掌から扇子が落ちた。
その音に香鈴が身じろぎをした。しかし寝返りを一度うち、深い眠りの中沈み込む。
息を付いて、それを見つめた。
帰りたい。
香鈴は可愛い。鴛洵さまはやさしい。でもそういう問題ではないのだ。
この世界へと誘った扇子を、祖母を恨めないけれど疎ましさは感じてしまう。おばあちゃんの遺品にこんな力があるなんて思いもしなかった。
璃桜に捕まるのは絶対に嫌だ。
だから助けてくれたことに文句は言えない。
でも、帰りたい。
璃桜は怖い。
縹家も怖い。
だけど、彼との対決なくしては帰れない。
ならば、
「鴛洵様お願いがございます」
まだ覚悟は決まらない。
でも、強くなりたい。
そう思った。