決意の願い

と申します。 以後お見知りおきを」
「……うむ」


 気のない返事が頭上を通り過ぎる。
 ゆっくりと顔を上げると、そこには長い髪を垂らした少年がやる気なさげにベットに腰掛けていた。
 彼こそは後世、最上治として讃えられる(はずの)紫劉輝さまだ。
 今の状態を見ていると、とても信じられないが。


 、二度目の十六歳を迎えたこの春より、後宮勤めを開始しました!
 ……なんてアニメのモノローグっぽく気合を入れてはみたけれど。










 鴛洵様にお願いして一年と少し。
 わたしは後宮勤めを始めた。
 太保という地位ある人に頼っていながら、これだけ時間を要したのにはわけがある。
 一つは王位争い時に悪化した後宮の混乱が収りきっていなかったということ。その状態でぺーぺーの女官(わたし)が入るのはあまりに危険が大きかった。
 そしてもうひとつ、試験難しすぎという事実。考えてみれば後宮女官=嫁ぎ先は選取りみどり。簡単なわけがなかった。
 故にこの一年、地獄を見た。
 

「ねえさまはやればできるんです」


 香鈴は誇らしげに瞳を輝かせていたが、ねえさまほんと死にそうでした。
 だって、シナプスが切れる音したもん。









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 そして劉輝さま付き女官になり数日が過ぎた。
 卓子に采を置き、振り返るとボケらっとした劉輝さまの姿が目に映る。将来はさぞかしと期待の美少 年だけれど、締りがない。モッタイナイお化けがでそうだ。
 それはそれとして、


「劉輝さま。 一つ、よろしいでしょうか?」


 ずずいと近づく。
 すると劉輝さまはうなずき、わたしの手を引いた。


(……はっ!?)


「分かっておる、今宵はが一緒に寝てくれるのだな」


 ベットに転がされ、美麗な顔が間近に迫る。


(うわーー!!)


 綺麗な顔に少しもぐらつかなかったと言えば嘘になる。しかし彼とこのまま致すわけにはいかない。
 結果、謹んでデコピン献上した。


「ぎゃっ! 痛いのだ!」


 赤く腫れたおでこを撫でながらしくしく泣きだした。泣く男は嫌いだ。でも彼は可愛い。


がいいか? って聞いてきたのだ」
「いや、そういう意味で言った覚えはありませんが」


 ぱたぱたと手を振る。
 すると劉輝さまは不思議そうに、


「じゃあなんなのだ?」


 と言った。
 わたしはその問いかけに答えるべく、息を大きく吸い込み、下腹に力を入れた。


「明日から、わたしも府庫へ連れて行ってください。 劉輝さまと共に宋太傅から剣のご教授うけたく 存じます」
「宋太傅から……!?」


 一瞬目を見張り、直後射抜くような視線を向けた。


「女人の身でなぜそれを望む?」


 尊厳溢れる態度だった。
 だから答える。


「叶えたい願いがあるから……強くなりたいのです」


 女だからという理由で馬鹿にしたり、手加減をするような師匠の元にはつけない。そんな心当たりは一人しかいなかった。






 彩雲国物語のはじまりまで、五年と迫った春のことである。