呼び声 香鈴

 道ばたでひとりうずくまる。人々は私が見えないかのように足早に通り過ぎていった。
 骨と皮ばかりになった身体は少しずつ力を失い、とうとう崩れ落ちた。


(しんじゃうのかな……)


 生きていても楽しいことなどあるとは思えなかったけど、


「しに……たくないよ……」


 ぼろりと生理的な涙が流れた。
 心のどこかでこれが最後かもしれないと思った。
 しかし、


(あたたかい……)


 私の言葉に応えるかのように何かが、、、包み込む。
 死の音が遠ざかった気がした。
 そして意識は深い闇に飲まれる。










「良かった、目が覚めたのね」


 ぼんやりとしていた視界に漆黒の双眸が映る。


「……仙女さま?」


 その女(ひと)は昔話で聞いた神仙に似ていた。
 意志の強そうな黒曜石の瞳は柔らかに微笑み、少し冷たい指先が額に触れる。


「熱は、ないみたいだね。 しっかし仙女って……」
「ここはどこ?」


 苦笑するその女(ひと)に尋ねると、「菊花邸」と答えた。










「君の望むものをあげよう」









 私はその日鴛洵さまに拾われ、ねえさまから命をもらった。